(3)印刷会社は、入稿された本のデータを紙に印刷し、製本し、検査して本が出来上がる。一方、アップルから生産委託を受けたファウンドリのTSMCでは、マスクデータをもとに回路原板のマスクを作成し、これを元にシリコンウエハ上に半導体チップ(プロセッサ)を製造する。1枚のウエハ上には1000個ぐらいの同一チップが製造される。これを1個ずつ切り出し、パッケージに収め、各種テストを行って、プロセッサが出来上がる。
(4)できあがった本は、書店に発送され販売される。一方、完成したプロセッサは、台湾ホンハイが中国に展開している組立工場に送られて、iPhoneに搭載されてiPhoneが完成し、世界中に販売される。
このように、本の出版と半導体製造はかなり似通っていることがわかるだろう。そして、本の出版も、半導体製造も、何よりも重要なのは「大量に売れてナンボ」だということである。今回、筆者は4月20日に文春新書から『半導体有事』を上梓したが、そこには1万冊以上売れるという想定がある。もし、数千冊程度しか売れないと思われたら、出版社は筆者に執筆などさせなかっただろう。
半導体も同じである。iPhone用プロセッサが1年で2.3億個売れるというのは、確かに半導体としては突出した数である。しかしiPhone用プロセッサを特例として除いても、半導体は大量につくって売って、初めて利益が出るビジネスである。にもかかわらず、ラピダス関係者が、「コストで勝負しない」とか、「特殊なカスタムメイドの半導体を(少し)つくる」とか、「超短TATでつくる」ことだけを強調している。超短TATでつくってTSMCより安いのか。
このように、ラピダス関係者は誰も安価につくることに言及していない。それは、大量につくることを想定できないからではないか。となると、ラピダスはファウンドリ、というより半導体のビジネスの本質を理解できていないのではないか。そんなラピダスに巨額の税金を投入するのはやめていただきたい。
(文=湯之上隆/微細加工研究所所長)
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