そして、市場戦略もmiHoYoはこの2社と異なる方針を貫いているようだ。
「テンセントやネットイースは、中国市場を主に狙ったマーケティング戦略を展開していますが、miHoYoはグローバル展開に力を入れています。その一環として同社は、22年から子会社であるCOGNOSPHEREのもとで新ブランド『HoYoverse』を設立。『原神』をはじめとする一部既存タイトルや、新規タイトルの開発元として活動することになり、メタバース産業の参入も見据えています。これは米中対立により中国のアプリやサービスを利用停止する流れがあるので、海外ユーザーに対して危険性のないアプリであることを示していきたいというmiHoYoの考えによって行われている戦略でしょう」(同)
miHoYoの成功は今や火を見るよりも明らかだが、設立からまだ十数年の若い企業であり、設立当初も運営スタッフが数人しかいなかったそうだ。しかし20年9月ごろには『原神』の開発スタッフだけでも400人規模になっていたという。急ピッチな人材確保にも思えるが、なぜここまでスタッフの数を伸ばすことができたのか。
「前提として中国は世界一のスマホ大国で、ゲームのエンジニア人口も多いため、日本よりも人材を集めやすいんです。そして、中国は人材の流動性が高いのですが、miHoYoは会社の規模が小さかった時期から給与面で高条件を出しており、人材確保を優先してきた歴史があります。『崩壊学園』『崩壊3rd』の成功を受け、自己資金を貯めることができたので、より大きな人材投資を行うことができたのでしょう」(同)
また中国当局がアニメ文化を推進していることも、miHoYo躍進の大きな追い風になっているという。
「中国当局は、近年アニメ・ゲーム文化の発展を奨励しており、今ホットな産業になっています。なかでも、miHoYoは日本のオタクカルチャーというブルーオーシャンに切り込み、中国にいる潜在的な顧客層を発掘することに成功した先駆けのメーカーです。加えて、『崩壊』シリーズという強力なIPを育てることができたことも非常に大きな強みだと考えています。たとえば、日本だと任天堂が『スーパーマリオ』『ゼルダの伝説』のように強力なIPを育てることができていますよね。しかし従来、中国のゲームメーカーは自前のIPを育てることができず、他社IPを買収して作品をつくっているケースが大半だったんです。miHoYoは日本の任天堂やアメリカのディズニーなどに倣い、自分たちのIPを丁寧に育て上げるために注力し、世界観を確立できたことがファン獲得に結び付いたのでしょう」(同)
miHoYoはかねてから「Tech Otakus Save the World」(技術的なオタクは世界を救う)というスローガンを打ち出しており、日本のオタク文化を継承した独自の世界観や技術力を大事にしてきた。miHoYoのほかにも『アズールレーン』『ブルーアーカイブ -Blue Archive-』をリリースする「Yostar」は、中国の「上海悠星網絡科技有限公司」を母体とするゲーム会社であり、日本風ゲームを日本市場メインに展開している。今後第2、第3のmiHoYoのような中国メーカーが出てくれば、強力なIPを持つ日本メーカーといえど無事では済まないだろう。日本のメーカーが太刀打ちできる術はあるのか。
「中国は人材流動が激しく、グローバル展開に関してもノウハウを持った人材が次々と企業を渡り歩き、企業ごとにノウハウが蓄積されていく状況にあります。そのため、中国メーカーはグローバル展開もうまく、宣伝に関しては世界有数の影響力を持っているのです。また、現状はやはりマンパワーや技術力で中国メーカーに押されている印象がありますので、日本メーカーの最大の強みである人気IPを活用し、世界に発信していかなければいけないでしょう。
しかし任天堂、スクウェア・エニックスのような大手メーカーならまだしも、残念ながら日本のゲーム業界の中規模以下のメーカーでは、世界戦略を展開できるノウハウや力はありません。そのためプライドを捨ててでも、グローバル展開に成功している中国メーカーのやり方を盗む、もしくはノウハウを持ち合わせた人材を引き抜く、といった戦略をしていかないと太刀打ちでないのではないでしょうか」(同)
(取材・文=文月/A4studio、協力=高口康太/ジャーナリスト)