ソニー、経営危機から10年で「過去の輝き」を取り戻せた理由…複合事業体を解消へ

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ソニーグループのHPより

 5月18日、ソニーグループは2023年度の経営方針説明会を開催した。注目点の一つは、金融事業を分社化する考えを示唆したことだ。金融事業を分離することで、事業の多角化による株価の割安感=いわゆる「コングロマリット・ディスカウント」の解消を目指すとした。ソニーフィナンシャルグループの分社化によって、当該事業部門の上場を検討する。それが実現した場合、ソニーは一部の株式を保有することを前提としている。

 金融事業の上場によって獲得した資金は、成長加速のために再配分されとみられる。エンターテイメント(エンタメ)分野や、ゲームの映画化など成長戦略は加速しそうだ。ハードウェア領域では、CMOSイメージセンサーなどの製造技術向上、収益分野の拡大が目指される。いずれも、成長期待を高める要素だ。5月31日、世界大手の信用格付け業者ムーディーズは、ソニーの格付け見通しを「安定的」から「ポジティブ」に変更した。主な理由は、事業転換による収益性とキャッシュフローの継続的な改善だ。新しい発想と、最先端の製造技術を結合してウォークマンなどを世に送り出した、あの頃の輝きを、ソニーは取り戻しつつあるようだ。

金融事業を分社化する狙い

 ソニーが金融事業の分社化を検討する主な狙いは、コングロマリット・ディスカウントの解消にある。コングロマリットとは、様々なものが集まった固まりを意味する。業種の異なる多様な事業を運営する企業を、一般的にコングロマリット企業と呼ぶ。企業の目的は、長期の存続にある。経済、事業環境の変化に対応し、持続的に成長するための戦略の一つに、事業の多角化がある。企業は異なる業種に参入し、収益分野は拡大する。それは、景気や需要の変化による業績のブレの抑制に重要だ(リスクの分散)。

 ソニーの事業運営のヒストリーを確認すると、祖業は音響機器の製造だった。1960年代、トリニトロンテレビが開発された。1970年代、ウォークマンも発表された。いずれも世界的にヒットした。ソニーの事業規模は拡大した。ウォークマンは、いつでも、どこでも、より良い音質で好きな音楽を満喫する、という新しい生き方を可能にした。その後、ハンディカム、ゲーム機のプレイステーションなども創出された。共通するのは、従来にはなかった感動(需要)の創出だ。そこにソニーの強みがあると考えられる。

 ソニーはエレクトロニクス以外の分野でも収益を追求した。1979年、ソニーは米プルデンシャルとの合弁出資により、ソニー・プルデンシャル生命保険(現ソニー生命)を設立した。収益源の多角化による成長の加速と業績の安定性向上が目指された。その後、ソニーは、銀行など金融事業を拡大した。

 こうして、ソニーの事業ポートフォリオは、エレクトロニクス、映画、金融など、複数の業種から構成されるに至った。多角化に伴って、主要投資家にとって、何がソニーの強みか、事業ごとの相乗(シナジー)効果がどう発揮されるかなどは、わかりづらくなっただろう。わかりづらさが高まる分、株式市場における複合事業体(コングロマリット企業)の評価は低下する。これをコングロマリット・ディスカウントと呼ぶ。その解消に向け、ソニーは金融事業の分社化、上場を検討し始めたと考えられる。

金融事業とのカルチャーの差異

 カルチャーの違いも、金融事業の分社化が検討される背景の一つだろう。金融とは、お金の融通だ。低い金利で資金を調達する。資金需要が旺盛、かつ高い利ザヤが見込める分野に投融資する。その後の展開次第で、短期間に多くの利得を手に入れることも可能だ。リーマンショック後、世界的に超低金利環境の長期化期待は高まった。米国のIT先端分野など、成長期待の高い分野に投資資金は流入した。買うから上がる、上がるから買うという強気心理は高まり、ナスダック総合指数など株価上昇は鮮明化した。強気相場が未来永劫続くと、根拠のない楽観も増えた。