弁理士が夫から聞いた川崎重工の未公開の重要情報ツイート→インサイダー取引との指摘

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川崎重工のHPより

 ある弁理士法人の代表がTwitter上に、夫から聞いた話だとして川崎重工業の公開前の量産計画や数年先の新商品発売に関する情報を投稿。さらに同社の株式を購入する予定だと記述し、インサイダー取引に該当する可能性があるのではないかという指摘が相次いでいる。果たして違法性はあるのか、専門家に聞いた。

 弁理士とは、特許出願や商標登録出願、知的財産に関する相談・アドバイスを行う国家資格。今回物議を醸してるツイートを投稿したのは、そんな弁理士法人の代表を務める人物だ。ツイートには「極秘だけど」という文言もみられ、気軽に公開してはいけない企業の機微な情報であるとの認識を有していた様子がうかがえる。

 インサイダー取引とは、上場企業などの役員や社員が、その企業の株価に重要な影響を与える事実(重要事実)を把握し、その重要事実の公表前に株式などの売買を行うことを指し、金融商品取引法で規制されている。また、実勢を反映しない相場を作為的に形成するための株式取引を繰り返したり、実際に株式取引を行わなくても、株式の相場変動を図ることを目的として未確認の事実を流布することは、相場操縦的行為として金融商品取引法で規制されている。

 インサイダー取引として大きく世間に注目されたのが、2006年の「村上ファンド事件」だ。ライブドアがニッポン放送株を大量に購入する予定があることを知る立場にありながら、その情報を利用してニッポン放送の株を大量に買い付けたとして、村上ファンド代表の村上世彰氏が旧証券取引法違反の容疑で逮捕。2011年に有罪が確定し、懲役2年、執行猶予3年などが命じられた。これを契機に日本ではインサイダー取引に対する意識が高まったが、昨年には大手ゲーム会社スクウェア・エニックスの元社員で著名なゲームクリエイターの中裕司氏がインサイダー取引事件に関連して逮捕されるなど、事件は絶えない。

 また、相場操縦事件としては、昨年のSMBC日興証券の事件が大きく世間を騒がせたことが記憶に新しい。19~21年にかけて同社が組織的に不正な注文を繰り返し約11億円の利益を得たとして、幹部ら6人と法人が金融商品取引法違反の容疑で起訴。今年2月にSMBC日興証券に対し罰金7億円、追徴金44億円の判決が出された。さらに昨年10月には金融庁より、一部業務の3カ月停止と内部管理体制の強化を求める業務改善命令が出される事態となった。

倫理的に問題

 金融業界関係者はいう。

「インサイダー取引では、当該企業の内部者から公開前の重要情報を知らされた者も金融商品取引法の規制の対象となるので、もしその情報をもとに株式取引を行っていたとすれば、違法性が問われる可能性もあるだろう。また、もし仮にこの代表がSNS上に投稿した情報が事実ではない場合、株価を不当に歪めかねない虚偽の情報を流したという『風説の流布』とみなされ、同じく法的に問題となるかもしれない。いずれにせよ、近しい人物から入手した企業の公開前の重要情報を株式取引と絡めてSNS上で流すというのは、かなりリスキーな行為。もし罪に問われなかったとしても、弁理士法人の代表という立場を考えれば倫理的に問題といわざるを得ない」

 今回のTwitter投稿を行った弁理士法人の代表に見解を問い合わせたが、期限までに回答を得られなかった。山岸純法律事務所代表の山岸純弁護士はいう。

「『今年の11月に新ラインの設備を購入』や『来年の2月からバイクの大量に量産』は、いわゆる『決定事実』や『そのほか、投資判断に著しい影響を及ぼすもの』と呼ばれるインサイダー情報となる可能性が高いと思われます。『今年の決算が良さそうらしい』だけでは、具体的な予測値がないのでセーフでしょう。これらの情報の公表前に、実際に株式を購入していれば、5年以下の懲役や500万円以下の罰金などが科されますし、利益分は没収されます。

 なお、これらの情報が『ウソ』の場合、ネットでこういった情報を流すことは、自分が保有する株式の上昇を狙ってのことという動機も考えられるので、『風説の流布』として、10年以下の懲役や1000万円以下の罰金などが科される可能性があります」

(文=Business Journal編集部、協力=山岸純弁護士/山岸純法律事務所代表)