半導体事業で年間約9兆円の売上を誇る韓国サムスン電子。13日付け日本経済新聞記事によれば、同社が日本に半導体開発拠点を新設し、日本政府が100億円超の補助金を支給する方向だとされるが、日本の半導体メーカーが世界市場で苦戦するなか、その競争相手ともいえる世界第2位のサムスンに政府が多額の補助金を出すことに疑問の声も広まっている。果たしてこの補助金支給は日本経済にとってメリットがあるものなのか。専門家に聞いた――。
かつて半導体産業は日本のお家芸だった。1980年代、日本企業の世界の半導体市場におけるシェアは5割を超えていたが、韓国や台湾などアジア勢の台頭を受けて徐々に衰退。1999年にNECと日立製作所のDRAM部門が合併して生まれたエルピーダメモリは(2003年に三菱電機の事業が合流)、12年には会社更生法を申請し破綻。13年にはアメリカのマイクロン・テクノロジーに買収された。
また、10年には日立、三菱電機、NECのシステムLSI部門が統合するかたちで設立されたルネサスエレクトロニクスは当初から経営の混乱が続き、現在の世界シェアは数%程度で上位10位圏外とみられる。このほか国内勢としては、経営危機に陥った東芝から17年に分社化されたキオクシア(旧・東芝メモリ)と、昨年にトヨタ自動車やソニーグループなど8社が次世代半導体の国内生産を担う企業として設立したラピダスが残るのみだ。
そうした日本勢を尻目に躍進したのが、世界シェア1位の台湾積体電路製造(TSMC)と2位のサムスンだ。前出・日経新聞によれば、そのサムスンは横浜市鶴見区に半導体の開発拠点を新設して25年中の稼働を目指し、それに際し日本政府が拠点設置費用の約3分の1に当たる100億円を補助する方向で調整が進んでいるという。
日本政府が海外の半導体メーカーの拠点新設に補助金を出す例は、これが初めてではない。経済産業省は昨年、米国マイクロン・テクノロジーの広島工場の設備投資に最大で465億円を助成すると発表。同年には同省は、熊本県でTSMCが建設中の工場へ最大4760億円を助成することも決定。新工場投資額の半額近くを助成する。こうした「敵に塩を送る」ようにもみえる政府の動きに対し、なぜ巨額の売上を誇る海外のガリバーに税金から補助金を出す必要があるのかと疑問の声もあがっている。
「日本の半導体メーカーの地位が大きく低下した一方、東京エレクトロンやアドバンテスト、SCREENなど半導体製造装置メーカーや、半導体製造に使われる素材のメーカーは、今も世界市場で高い競争力を維持している。政府としては、そうした企業群と世界の半導体メーカーの結びつきを強固にして産業全体を底上げしていく狙いもあるのでは」(全国紙記者)
国際技術ジャーナリストで「News & Chips」編集長の津田建二氏に解説してもらう。
TSMCを熊本に誘致したのに続き、サムスンも横浜市に半導体開発拠点を設けると日経新聞が報じた。報道によれば、半導体チップの組み立て(後工程)の試作ラインということであり、前工程ではなさそうだ。政府は企業の投資に補助金を出す制度を立法化したが、サムスンが申請すれば300億円の試作ラインの内の100億円程度を、政府が本当に出すのだろうか。というのは、同様の開発試作センターをTSMCが先に茨城県のつくば市にすでに自力でつくっているからだ。
後工程といっても2.5D/3D-IC向けの先端パッケージ技術は、電極間隔・幅が10?mあるいは20?mと、従来よりも進んだ微細化技術が求められる(従来、最も微細とされてきたのは40?m)。数百ピンにわたって一様にすべてのピン同士を重ねて接着させることは容易ではない。わずかなバラつきでも許されないからだ。異種材料をたくさん使うパッケージの反りやバラつきなど、歩留まりを落とす問題が多い。さらに放熱も問題で、実用化はまだ先になる。これを解決するためには日本の材料メーカーとの協力が欠かせない。
日本には世界に通用する材料・化学メーカーが多い。サムスンが先端パッケージセンターをつくるのであれば、TSMCと同様の条件を日本政府が示すのか、補助金を出すのか。政府の覚悟にかかっている。
(文=Business Journal編集部、協力=津田建二/国際技術ジャーナリスト)