2022年2月期末と2023年3月期末の出店計画を比較するとニトリは中国大陸、マレーシアなどでの出店を増やす。2024年3月期の重点課題の一つとして、中国では約400名の新卒採用も計画している。若手従業員を現地で採用することによって、実店舗(リアル)とネットの両面での販売体制が強化される。ニトリはこれまで出店してこなかった国や地域にも進出する。タイ、ベトナム、インドネシアにはそれぞれ5店舗、フィリピンには2店舗が出店される計画だ。中長期的に、世界経済の中でも東南アジア諸国の経済成長率は高く推移するだろう。所得の増加を背景に、家具需要も伸びると予想される。香港と韓国にも初めてニトリは出店する。国内では出店の増加や店舗の改装によって一定の収益を得る。獲得した資金や人材を急速に東南アジア諸国などに再配分して収益力を引き上げる戦略が始動している。中期的に、東南アジア諸国などでの新規出店数は国内を上回るだろう。
東南アジア地域では、イケアも出店戦略を強化している。2023年2月15日の時点で、イケアは世界全体で460店舗を運営している。うち79店舗がアジア地域(わが国を含む)だ。イケアにとっても東南アジア市場攻略の重要性は高まっている。2021年11月にはフィリピンで初めての店舗がオープンした。注目されたのは、その規模だ。床面積は6万8,000平方メートル(東京ドーム1.5個分)、出店時点でイケアにとって世界最大の規模だった。フィリピンの店舗には、ネット通販に対応するための倉庫機能も併設した。イケアにとってフィリピンは同国のみならず、東南アジア新興国の家具、日用品、さらには週末のショッピング体験などの需要を取り込むための重要プロジェクトに位置付けられる。そうした取り組みはさらに強化されるだろう。
今後、ニトリに求められる取り組みの一つは、差別化を徹底してイケアなどとの激化する競争に対応することだ。ニトリは日本の消費者の要望にこたえる商品をスピーディーに開発し、海外で商品を生産し、物流機能を強化して顧客に提供してきた。今後は、東南アジアを中心に新規に参入する市場において、顧客の潜在的な要望に応えることが求められる。ポイントになるのは、日本企業が世界の消費者に与えるイメージを活かして、ニトリというブランド競争力に磨きをかけることだ。
2022年11月に電通が公表した調査結果によると、タイでは日本企業の製品はコストパフォーマンス(コスパ)に優れ、高性能でもあるといったイメージがもたれている。台湾ではやや状況が異なる。丁寧に作られて長持ちし、高級感があるとのイメージがもたれている。国や地域ごとに異なる消費者の心理を細やかにくみ取り、商品の開発を進めることによって、ニトリはより多くの需要を獲得することができるはずだ。
2023年3月期の決算資料によると、2024年に大学を卒業する大学生を対象とする就職企業人気ランキングの文系総合部門でニトリは1位だった。高い成長の志向、デジタル化を積極的に取り入れる経営姿勢、賃上げは多くの若者の支持を得ている。内外の新卒学生などの溌溂としたアニマルスピリットと、これまでに培ってきた迅速に顧客の要望に応える商品開発や製造、物流体制、およびライブ・コマースの配信体制の強化などを組み合わせる。それによってニトリは内外の消費者に新しい生活様式を提案して需要を創出することができるだろう。
東南アジア諸国での事業運営体制の強化などに向け、国内外での企業とのアライアンスや小売企業などの買収も増加すると予想される。特に、インドなど成長期待の高い一方で外資規制が導入されている市場に参入するために、現地企業との提携戦略の重要性は高まる。ニトリが磨いてきた丁寧なモノづくりと顧客へのサービスを東南アジアなどの新興国市場に導入し、どのように新しい需要を創出するかが注目される。
(文=真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授)