産経新聞によれば、総務省は先月27日、有識者会議である公共放送ワーキンググループ(WG)の会合(第7回)を開催し、スマートフォンなどで放送を視聴できる環境にある人からの受信料収入が、NHKの財源として望ましいとする意見で一致したという。NHKがスマホ所有者から広く受信料を徴収する動きを加速させるとの見方が広まっている。
総務省は昨年秋から同WGにて、将来のNHKのインターネット関連事業のあり方に関して議論を行っている。焦点は、ネット事業をNHKの「必須業務」に変更するかどうかという点。現在は放送を補完する「実施できる業務」として位置づけられており、配信コンテンツはNHKで放送される内容の「理解増進情報」に限定されている。もしNHKがネット事業を必須業務として多額の受信料収入を元手に大々的に展開すれば、慎重に収益性を見極めながらネット事業を展開する民放各局は打撃を受けかねないため、日本民間放送連盟は反発している。
産経新聞によれば、今回の同WGではNHKの財源として、サブスクリプション収入、広告収入、税収入も提示されたが、公共性などへの懸念が指摘され、スマホなど視聴可能な環境にある人からの受信料収入とする考えで一致したという。同WGのこれまでの議論では、スマホでの視聴を無料にする案や、専用アプリの利用者から受信料を徴収する案などが検討されている。
現行の受信料制度では、「NHKの放送を受信できるテレビ(チューナー内蔵パソコン、ワンセグ対応端末などを含みます)を設置」(NHKのHPより)すると放送受信料を支払わなければならないとなっており、放送受信契約者はサイト「NHKプラス」などで地上波放送とリアルタイム、もしくは放送後に見逃し配信というかたちで視聴することが可能。会員登録すれば、スマホでもネットで「NHKプラス」にアクセスするかたちで放送を視聴できる。このほか、受信契約の有無に関係なく月額990円の「NHKオンデマンド」に加入すればスマホで過去の番組を視聴できる。
NHKがテレビ非保有者からも広く受信料を徴収する動きは以前から進行している。NHKは2017年に公表したNHK受信料制度等検討委員会の答申案で、スマホやインターネットの利用者からも受信料を徴収する検討を始めており、過去の有識者会議でもテレビを持っていなくてもスマホなどで積極的に放送を見る人については「負担を議論していく必要がある」との意見が出ていた。
背景には受信料収入の低下がある。2020年度には年7000億円を割り込み、テレビを持たない世帯の増加も影響して今後も右肩下がりになると予想されている。
「もしネット事業が必須業務に変更されても、いきなりスマホを所有していれば問答無用に受信料を取るというかたちすれば世間にハレーションを起こすのは必至なので、まずはアプリをインストールした人のみから徴収するというかたちをとるのが現実的。だが、NHKが『必須業務』化を理由に誰でもネットでリアルタイム視聴できるようにして、その上で将来的に受益者負担を口実に『スマホやPC、タブレットなどネットにアクセスできるデバイスを持っていれば誰でもNHKの番組を見られるので、受信料を徴収します』と、なし崩し的な手段を取ってくる可能性も高い。現在も『テレビを持っていれば受信契約を結んでもらう』というかたちなので、それと同じ論理を持ち出してきてもおかしくない」
NHKのネット事業拡大の弊害について、全国紙記者はいう。
「NHKは潤沢な資金をバックに全国に広くかつ盤石な取材網を構築し、テレビ放送に加えて日々、膨大な量のニュース記事をウェブの『NHK NEWS WEB』などで配信しており、すでに現在も民間メディアの事業を圧迫している。また、NHKのネット配信コンテンツはテレビ放送の内容を補完する理解増進情報に限定されているという建前になっているが、基準があいまいで第三者がチェックするわけでもなく、NHKの裁量次第。事実上、制限はなきに等しい」