これまで任天堂は、カードゲームや「Nintendo Switch(ニンテンドースイッチ)」などハードウェアの創出体制を強化することによって成長してきた。特に、新しいゲーム機と多種多様なゲームソフトの開発によって同社は、より満足度の高いゲーム体験を世界の人々に与えた。その結果、任天堂のゲームキャラクターへのファンは増えている。突き詰めて考えると、任天堂の強みは、人々が愛着を感じやすいキャラクターなど、ソフトウェア創出にある。それは超大型の買収を発表したマイクロソフトなど、世界の他のゲーム企業との大きな違いだ。
?そうした強みを生かして、任天堂は事業領域を拡大している。その一つは映画だ。米国で公開された『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』は多くの人の心をつかんだ。任天堂は持続的な成長を目指してコンテンツの新しい利用方法を社会に提示し、ゲーム機事業以外の収益力を引き上げようとしている。そのために、インバウンド需要の回復は、同社にとってかなり重要な事業機会となるだろう。
1889年に任天堂は花札の製造を開始した。その後、任天堂は積極的に業態の転換を進めた。1950年代、任天堂はプラスチックのトランプ製造に進出した。汚れにくく破れにくいプラスチック製のトランプは、社会の娯楽ニーズ増加を取り込んだ。任天堂は従業員の「こういうモノがあったら面白い」という発想の実現に取り組み、玩具事業などに進出した。このように、ハードとソフトの新しい結合によって任天堂は成長を実現した。
その象徴は、1983年に発売された「ファミコン」だ。任天堂はデパートなどのゲームセンターに設置する大型の業務用のゲーム機を家庭で簡単に楽しめるようにした。1980年代といえば、テレビ、オーディオ機器、メモリ半導体などの分野で日本の電機メーカーなどが世界的な競争力を急速に高めた時期でもある。製造技術の高度化は、任天堂が花札などのカードゲームメーカーから、世界的なゲームメーカーに飛躍するために重要な役割を果たした。任天堂はだれでも気軽に楽しめるゲームを創造するために、国内半導体メーカーなどの協力を取り付け、ファミコンを生み出した。その上で任天堂は、多くの人が親しみを持てる「スーパーマリオ」などのキャラクターを生み出した。
こうして任天堂は世界的なゲームメーカーへ業態の転換を遂げた。ファミコンのヒットを皮切りに、任天堂は「スーパーファミコン」「ゲームボーイ」「ニンテンドーDS」「Wii(ウィー)」などを生み出し世界的ヒットを実現した。それに伴い、ゲームのソフト(コンテンツ)の創出体制も強化された。近年ではNintendo Switchがヒットし、「あつまれ どうぶつの森」などのソフト売り上げが増加した。世界的な新型コロナウイルスの感染発生、感染再拡大の長期などを背景にSwitchの売り上げは増加した。2021年3月期の連結売上高は、1兆7,589億円、営業利益は6,406億円に達した。その後、任天堂の業績は徐々に伸び悩んだ。スイッチの需要飽和は大きい。加えて、世界的なインフレの進行、一時の半導体の不足なども重なり2023年3月期の売上高は1兆6,000億円、営業利益は4,800億円に減少する見込みだ。
任天堂の業績は新しいゲーム機を生み出し、世界的ヒットにつなげられるか否かに大きく影響されてきた。市場に投入する新しいゲーム機が常にヒットするとは限らない。加えて、リーマンショック後の世界経済ではスマホの普及によってオンラインゲームの市場が急速に拡大した。任天堂を取り巻く事業環境の厳しさは増している。