もちろん、マーケティングリサーチの重要性を否定するつもりはないが、「なんでもかんでも消費者に聞けばよい、消費者から教えてもらう」といった姿勢は、間違った顧客志向である。
筆者は大学院生の時、指導教官から「調査は事前準備がすべて。徹底的に調べ上げ、自らしっかりと仮説を立てて臨むように」といった助言を受けたことがある。確かに、消費者へのアンケート調査などから新たなアイデアを得ようとしても、なかなかうまくいかない。逆の立場、つまり自らがアンケートに答える立場になった際、自由記述欄に何も書かない人は少なくはないだろう。
よって、消費者アンケートの実施においても、それ以前にまず市場動向や社内シーズなど様々な情報を踏まえ、自らが真に実現したいと信じるアイデアを構築し、これを仮説として消費者ニーズを踏まえ、検証していくというスタンスが重要である。
「想定を上回る素晴らしさ」「自らは気づかなかったが確かに便利」など、大ヒット商品にはある種の驚きが必須であり、消費者丸投げ的なマーケティングリサーチの実践は、重要な「驚きの創出」を逆に阻害する危険性があることを肝に銘じる必要がある。
(文=大﨑孝徳/香川大学大学院地域マネジメント研究科教授)