ただ単に植樹をしていくという上辺だけの取り組みではなく、積水ハウスは失われていく生物多様性の保全や回復に貢献する活動として、超長期的なビジョンを持って取り組んでいる。ここが、他社の取り組みとの決定的な違いだろう。
21年間で1810万本を達成した『5本の樹』による生物多様性保全への効果を、科学的かつ客観的に検証することにも、世界で初めて成功したという。
琉球大学の久保田康裕教授は、動植物、気候などのデータを10年以上緻密にビッグデータ化し、生物多様性を科学的に分析する研究をしている。久保田教授の生物多様性ビッグデータを使い、『5本の樹』計画で植栽した樹木データ(樹種、本数、位置情報)を解析したところ、次のような結果が出たという。
「全国を1キロ単位で細かく分析したところ、1810万本の樹木が増えることで、在来樹種が平均5種類だったのが、平均50種類へと10倍に増えました。また、住宅地に呼び込める鳥は平均9種類から平均18種類へと2倍に、蝶は平均1.3種類から平均6.9種類へと5倍に増えることがわかりました」
(積水ハウスの「5本の樹」計画サイトより)
『5本の樹』の効果は、生物多様性の保全や回復だけでなく、住民のメンタルにも良い影響が出ているという。
「昨年、あるご家庭を訪問させていただいたのですが、お子様が新型コロナの影響で学校に登校できずに、ずっとお家にいる状況でした。ところが、お子様はニコニコ元気でいらっしゃるのです。『どうしたの?』と聞くと、『毎日お庭に鳥が来ていたから、鳥の観察をしたんだよ』と教えてくれたのです。『こんな鳥さんがきたよ』と笑顔で話されているのを見て、お客様のメンタル面でも癒し効果があるということを実感しました」(同)
三大都市圏の生物多様性シミュレーションを行った結果、2010年には多様性統合指数が1980年に比べ90%以下まで落ち込んでいたが、積水ハウスが取り組んできた『5本の樹』によって95%近くまで回復させることがわかった。
しかし、積水ハウス一社では限界がある。八木氏は、次のように提言する。
「弊社だけでも大きな効果を出すことができましたが、それでも限界があります。もし、我々を含めて新築住宅の3割で同じ取り組みを行った場合、さらに生物多様性を回復させることが可能になります。そのために、弊社が作成して効果を出している『庭木セレクトブック』を公開させていただき、業界全体で取り組んでいけるように働きかけていきます」
WWF(世界自然保護基金)は、地球環境の現状を報告する『Living Planet Report』で、世界の生物多様性が、過去50年で68%喪失していることを指摘している。
2020年をベースラインとして、2030年までに総体でポジティブ(プラス)になること、2050年までに十分に回復させることを目標とした、“ネイチャーポジティブ”という概念が、世界で注目されている。
積水ハウスは、まさにネイチャーポジティブの実現を向けて、地道に、そして確実に生物多様性の回復に取り組んでいる。
(構成=鈴木領一/コンサルタント)