今年度の名目設備投資、32年ぶりの100兆円台か、上昇の理由…経済停滞から脱却か

 実質ベースで同様の試算を試みても、実質設備投資(2015年基準)は21年度実績の87.2兆円から22年度は92.3兆円と既往ピークを更新し、23年度は96.9兆円にまで拡大することになる。

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4.円安を利用し、国内の強みへの投資支援が必要

 諸外国を見ても、民間企業設備投資の呼び水となるような政府の支援策には積極的である。例えば中国では、「中国製造 2025」の中で、重要分野の7割国産化を目標としている。また「国家集積回路産業投資基金」を設置し、半導体関連技術に計5兆円を超える大規模投資を実施している。これに対して、米国バイデン政権の成長戦略でも、超党派インフラ投資法で総額1兆ドルのインフラ投資に加え、半導体・科学技術法として国内半導体製造業へ5年間で527億ドルの資金援助、インフレ抑制法として4330億ドルの経済対策を打ち出している。EU でも、2020年5月に電池や半導体といった戦略的な重要物資のチョークポイントを分析し、特定国への依存を低減させ自立化を図る「2020産業戦略アップデート」を公表する一方で、2019年7月に打ち出された「EU 復興パッケージ」では、イノベーション支援やグリーン・デジタルへの移行などのために、合計で約 1.8 兆ユーロの予算を計上している。

 こうしたなかで日本は、為替が円安水準にあることや新興国での人件費高騰、経済安全保障への意識の強まりなどにより、国内回帰を決断しやすい環境である。こうしたことからすれば、政府は気候変動対策や経済安保、格差是正等の将来の社会・経済課題解決に向けてカギとなる技術分野や戦略的な重要物資、規制・制度等に着目し、国内の強みへの投資を促す支援策の継続が必要となるだろう。

(文=永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト)