ルネサス、アナログ半導体で世界10位に浮上…営業利益率4割で高収益化が加速

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ルネサスエレクトロニクスのHPより

 最近、ルネサスエレクトロニクスはアナログ半導体関連の事業運営体制を一段と強化している。3月22日に発表されたオーストリアの新興企業、パントロニクスの買収はそれを象徴する取り組みの一つだ。世界経済のデジタル化は加速している。それに伴い、自然現象をはじめ、わたしたちが見たり耳にしたりする情報をデータに変換するニーズは増える。そのために、アナログ半導体の需要が急速に高まっている。ルネサスは、そうした環境の変化を収益につなげようとしている。

 現在、世界の半導体産業では車載、人工知能(AI)などへの対応力の差が主要半導体メーカーの業績にかなりの影響を与えている。ITデバイス向けのメモリ事業に傾斜した韓国サムスン電子などの業績は悪化した。一方、車載、産業用のチップ需要の増加を背景に、ルネサスの業況は相対的に良い。ただ、今後の事業環境は楽観できない。中国への半導体、製造装置などの国際的な貿易管理体制は一段と厳格化され始めた。インフレ圧力の高止まりなど、世界経済の先行き不透明感も高まっている。そのなか、ルネサスは既存事業のコスト管理を強化しつつ、アナログ半導体関連事業の体制をさらに強化するだろう。

現在のルネサスの事業運営状況

 現在、ルネサスの業績は緩やかに拡大している。2022年12月期通期の売上収益は前年同期比51.1%増の1兆5,027億円だった。営業利益率は37.2%と、前年の29.8%から上昇した。分野別に売上収益の推移を確認すると、ルネサスが強みを発揮してきた車載用の半導体に加えて、産業・インフラ・IoT向け事業の収益が増えた。要因の一つとして、アナログ半導体の供給力の強化は大きい。

 アナログ半導体とは、光や音などの情報を処理したり、コントロールしたりするための半導体を指す。分類方法によっては、電圧の管理などを行うパワー半導体をアナログ半導体に含めることもある。半導体といわれると、パソコンなどの演算装置に用いられる「ロジック」、データの記憶に使われる「メモリ」が思い浮かびやすい。それに加えて、アナログ半導体は、わたしたちの生活や自然環境の変化などに関する情報を0と1のデジタル信号に変えるために欠かせない。その上で、ビッグデータを演算装置で分析したり記憶(保存)したりするためにロジックやメモリ半導体の製造技術の向上が加速している。

 もともと、ルネサスは三菱電機、日立製作所、およびNECの半導体事業を糾合して設立された。2010年に現在の事業運営体制が整備された。その後、組織の統合に時間がかかった。東日本大震災の発生による製造ラインの損壊もあり、一時、収益力と財務体力は低下した。その後、国内の自動車メーカーの業績拡大に支えられ、業績は回復した。特に自動車の走行、操舵などをつかさどるマイコン市場で、ルネサスは世界トップクラスのシェアを手に入れた。

 加えて、ルネサスは家庭、生産現場などの産業分野、社会インフラ、安全保障などで需要増加が期待されるアナログ半導体の製造能力を強化した。具体的に、2016年に米インターシル、2018年には同インテグレーテッド・デバイス・テクノロジーを買収した。2021年には、英ダイアログ・セミコンダクター、イスラエルのセレノコミュニケーションズも買収した。いずれもアナログ半導体メーカーだ。

近距離無線通信技術の強化

 買収によるアナログ生産体制強化などにより、2021年、ルネサスは世界第10位のアナログ半導体メーカーに成長した(米ICインサイツによる)。その上で、ルネサスはファブレス企業としてチップ開発に集中してきたパントロニクスを買収する。2014年にパントロニクスはルネサスのライバル企業であるインフィニオンなどでチップの設計、開発などに従事したエンジニアが中心となって設立された。特に、近距離無線通信(NFC、Near-Field Communication)技術を用いたソフトウェアの開発に強みをもつ。