大学6年間&難関国家資格の薬剤師、年収が米国の2分の1の理由…多い雑用に忙殺

 日米の年収差の理由はほかにもあるという。

「アメリカは医療保険制度が非常に複雑で、日本に比べて病院の診察費用が非常に高くなってしまいがち。ですからアメリカでは日本ほど頻繁に病院を利用する人は少ないのですが、そうなると頼りにされるのが、ドラッグストアに駐在している薬剤師。彼らに自分たちの症状を事細かに伝え、症状に合った薬を出してもらうというケースが日本よりも多いので、薬剤師の社会的地位が高いのです。

 それに加えて、アメリカは薬剤師の職能団体の活動がかなり活発という部分もありますね。職能団体というのは、専門的な資格や技能などを有する専門家たちが、自分たちの労働条件や福利厚生を維持・向上させるために結成した団体のこと。彼らが日々、薬剤師という職業の重要性を世間にアピールしているので、給与が高くなっている側面はあるでしょう」(同)

年収だけではない、日米で違う薬剤師の労働実態

 ハワード氏から見て、仕事の忙しさや大変さ、専門性の高さなどを考慮すると、日本における薬剤師の年収水準は妥当といえるのだろうか。

「妥当とは思えません。その理由は日本の薬剤師の業務範囲が、アメリカに比べてはるかに多岐に渡るからです。アメリカには『テクニシャン』と呼ばれる薬剤師をサポートする職業があり、彼らが薬局における電話応対やお客さまとの直接対話、処方薬の梱包、薬の在庫管理などの細かな作業をやってくれています。ですが、日本ではこうした作業もすべて薬剤師自身が行わねばならない。この差は先ほどお話しした職能団体の活動の影響によるものでしょう」(同)

 最後に、海外と日本の薬剤師事情を比較して、今後日本の薬剤師の賃金を上げていくにはどうすればいいのかを聞いた。

「日本とアメリカの薬剤師の年収の差を劇的に変える方法というのは、現状あまりないかもしれません。ただ、日本の薬剤師の労働負担を多少なりとも軽減できるかもしれない方法として、リフィル制度の普及が考えられます。リフィル制度はアメリカで広く利用されているものなのですが、簡単にいうと、一度医師からもらった処方箋を患者が一定期間使いまわせるという仕組みです。リフィル制度を利用し、薬がなくなる前にリフィルの注文をしてもらうことで薬の準備に数日間の猶予ができ、在庫管理も容易になります。

 日本でも長い期間の検討の末、22年にようやく導入されました。ただ、これは同時にアメリカのように薬剤師の患者に対する責任が高まることも意味しており、それゆえに導入が慎重に検討されていたという背景もあるのです。とはいえ私見ですが、これは日本の薬剤師の社会的な地位を向上させるいい機会だと考えています。リフィルを患者さんが安心して活用できるように、アメリカにおける職能団体に近い存在である日本薬剤師会が、薬剤師の責任感と存在感を世間によりアピールしていってほしいものです。そうしてリフィルの利用率が上がっていけば、結果的に日本の薬剤師の労働環境改善にもつながっていくのではないでしょうか」(同)

 日米の薬剤師の給与格差はなかなか埋まらないのが現実かもしれないが、業務多忙な日本の薬剤師の労働環境が今後、良くなっていく兆しはあるようだ。

(文=A4studio、協力=ハワードめぐみ/在米薬剤師)