開業に最低でも1億円…疲弊するミニシアター業界で今、新館開業が相次いでいる理由

 加えて、家庭で多彩な映画を視聴できるサブスクリプションサービスの普及により「映画館でお金を払って観るなら絶対にハズしたくない」と、前情報で“おもしろい”と確信を持てた作品しか観なくなった人も増えているという。北條氏はそうした人たちに「つまらないという評判の映画でも、自分でちゃんと観ないと何がおもしろいかもわからなくなるのでは」と、疑問を投げかけている。

今後のミニシアターの存在意義とは

 近年はミニシアターのあり方にも変化が見られるという。

「大手シネコンの新宿ピカデリーで上映されている作品をユーロスペースでもかけたり、ユーロスペースでヒットした作品が日比谷TOHOシネマズで上映されるなど、かつては存在したシネコンとミニシアターの垣根が緩やかになってきました。お客さんも昔は大作ならシネコン、インディペンデント映画はミニシアターで、といった区別をしていたと思いますが、現在はそうしたイメージに縛られない楽しみ方をしているように思いますね」

 また、北條氏によれば、ミニシアターならではのトークショーやティーチインのようなイベント上映の客入りはいいという。近年誕生したK2、Strangerなどは、映画の感想を誰かと共有できるコミュニティ施設を設けており、新たなミニシアター文化の特徴のひとつになる可能性もある。

 作品の記憶だけでなく、イベントや館内の雰囲気など、実際にミニシアターに行ってみたという“体験”の強さが、これから生き残っていくためのヒントになりそうだ。

「コロナ禍で改めてミニシアターの存在意義を考えたのですが、やはりシネコンでは上映されないおもしろい映画や、可能性のある若い才能を発掘するという役割は大きいと思います。そうした才能や作品が、ミニシアターでのヒットを経て、シネコンクラスで受け入れられて成長していくという過程そのものを共有できることも醍醐味です。映画界の未来のために、そして観客の好奇心を満たすためにミニシアターは必要だと考えてもらえるといいですね」

 このままミニシアター文化が減退の一途をたどったら、新進気鋭の才能が埋もれ、国の文化の減退に直結すらしてしまう。逆に言えば、ミニシアター文化が盛り上がれば、地域や国を活性化することもできる。

「2009年に日本で初めてアカデミー賞外国語映画賞をとった『おくりびと』は、撮影地だった山形県がおおいに沸き、現地に新しいミニシアターが誕生するきっかけになっています。また、2020年2月に韓国映画『パラサイト』がアカデミー賞で4冠を達成した時、韓国の人はどれだけ自国の映画文化を誇りに思ったんだろうと考えましたが、そのポン・ジュノ監督の長編デビュー作『ほえる犬は噛まない』が日本で最初に上映されたのはミニシアターでした。それだけ、自分の住む街・国から世界に誇れる作品が登場することには価値があり、人々を前向きにする力がある。そうした作品を生む土壌としても、ミニシアター文化は持続させていくべきだと思います」

 コロナ禍で佳境に立たされたミニシアターだが、その文化的ポテンシャルは計り知れない。その可能性を求めて、新たにチャレンジする人たちも増えていくのだろう。