三木谷氏が言及した楽天モバイルの法人プラン。ネット上では、苦境に立たされた楽天モバイルの焦りという見方も強い。
「焦りはそこまでないと考えられます。新春カンファレンスは楽天市場に参加する事業者向けのイベントですので、自社のサービスを会社のトップが紹介するのはなんら不自然なことではありません。赤字が続いているとはいえ、首が締まるほど危機的な経営状況ではないと思われるので、騒ぎ立てるのは早計ですね。ただ一方で、法人向けプランの提供は出遅れ感も否めません。やはり個人向けのプランと同程度のタイミングで提供を開始し、サービスの認知度を広げていくべきでした」(同)
ほかにも楽天モバイルの懸案事項は少なくない。たとえば、楽天モバイルが競合他社からシェアを奪うには携帯電話サービスの信頼と評価を上げていくほかないわけだが、それにもかかわらず楽天モバイルは企業イメージや姿勢に問題があるという。
「三木谷氏は2019年に他社が通信障害を起こしたとき、『楽天モバイルでは大規模な通信障害はあり得ない』と豪語していたのですが、昨年9月に通信障害を起こしてしまいました。auも昨年7月に3日間にわたる大規模な通信障害を起こしましたが、携帯電話サービスが十分に普及したauと、これからもっとエリアを拡充し、サービスを成長させなければならない楽天モバイルとでは、フェーズがまったく違いますからね。それに楽天に限らず、他社を揶揄するような言い回しで自社が優れているとアピールする姿勢はあまりイメージが良くないですし、ましてや後発サービスで、エリアも物足りない途上中の楽天モバイルがそんな失言をしてしまっては、顧客からの信頼は得られないと思いますよ」(同)
三木谷氏の強い意向でモバイル事業に乗り出している楽天。モバイル事業への投資のせいで赤字が続いており、グループ内からの反発も予想される。
「もちろん他部門からの反発は大きいと思います。そもそも楽天グループは人の出入りが激しいと聞いており、常に人材は流動的になっているようですので、今後の楽天モバイルの状況次第で人材流出が続いたとしても不思議ではありません。ただモバイル事業への参入にあたり、会社としては設備をはじめ、集中的に投資をしていて、簡単には引き返せない状況にあります。また、インターネットの主流はモバイルですし、通信量という定期的な収入も得られることもモバイル事業を展開するメリットのひとつです。そのため、このまま赤字が続いていてもすぐに撤退する可能性は低いでしょう。もし撤退するとすれば、経営陣の判断ではなく、株主などのステークホルダーが声を上げていき、その結果、撤退せざるを得ない状況に追い込まれたときではないでしょうか」(同)
だがそんな状況で、かねてより掲げていた23年中の単月黒字化を達成できるのか。
「個人的には達成は非常に厳しいと思っています。楽天としても、事業計画の段階で黒字化を掲げているので、投資家などの手前、黒字化に全力で取り組むと思いますが、いまの状況から考えると達成はかなり難しそうです。『1GB以下円』廃止に代表されるように、サービス開始から3年間で楽天モバイルが打ち出した施策は、そこまでうまくいっていない印象ですからね。
楽天グループがモバイル事業を軌道に乗せるためには、やはり楽天経済圏という最大の強みを活かす施策が必要不可欠なので、楽天グループ内の各事業との連携強化は最優先で図るべきです。このほかにもエリアの拡充に継続して取り組む必要がありますし、幅広いユーザーからの信頼を得ていくことも大切です。
現在、総務省で2024年春頃をめどに、新しいプラチナバンド(800MHz前後の周波数帯域)を割り当てる計画があり、後発である楽天モバイルに優先的に割り当てようとする動きがあります。楽天モバイルとしては『プラチナバンドが割り当てられれば、エリア問題は解決する』としていますが、新しい周波数帯のために基地局やアンテナを整備する必要があります。既存の基地局の場所も活用できますが、工事などのコストがかかるため、すぐに収益が改善するわけではありません。いずれにせよ、将来的に楽天モバイルが黒字化を実現するには、エリアや端末ラインアップ、サービス内容をしっかりと拡充し、幅広いユーザーに認められるように、地道に取り組んでいくしかないでしょう」(同)
(取材・文=文月/A4studio、協力=法林岳之/ITジャーナリスト)