また、リーマンショック後、米国ではシェールガス革命と呼ばれるほどに、シェールガス、オイル関連の投資が急増した。それは自動車大国である米国経済のエネルギー自給率向上に寄与した。そうした世界経済の環境変化を背景に、住友商事は資源、エネルギー関連の事業運営体制を強化した。日本経済の需要が低迷するなかで、成長期待の高まる海外経済の需要を取り込むために資源関連事業を強化することは必要な取り組みだった。
ただ、資源関連ビジネスの収益は原油や鉄鉱石の需給バランスや市況の変化に大きく影響される。米中をはじめ世界経済全体が緩やかに持ち直す場合であれば、資源需要は高まり、住友商事の業績は拡大する傾向にある。反対に、需要が減少しはじめると資源価格は下落する。それによって住友商事の業績は悪化した。一例に、2015年3月期、住友商事の最終損益は732億円の赤字に陥った。主な要因として、米シェール関連事業やブラジルの鉄鉱石関連事業での減損が響いた。ある意味、当時、総合商社としての競争力向上を目指す経営陣の考えは過度に高まり、無理のない範囲でリスクをとる発想は後回しになったとみられる。その反省もあり、それ以降、住友商事は資産売却などを進め、社会インフラをはじめとする非資源関連ビジネスの運営体制を強化している。
その一つとして、脱炭素関連ビジネスの注目は一段と高まるだろう。現在、国内外で住友商事は洋上風力発電など再生可能エネルギー分野での取り組みを強化している。また、住友商事は米国の核融合関連企業に出資するなど、新しいエネルギー技術を用いたカーボンニュートラルの実現にも取り組んでいる。その上で期待されるのは、国内を中心に、安定してより持続可能な形でエネルギーを供給する社会インフラを整備することだ。そうした取り組みを、より大きく、かつ加速させるために、資産の売却などは加速するだろう。
脱炭素は、同社のビジネスモデルを大きく変えるきっかけになるはずだ。過去、資源関連ビジネスといえば、鉱山開発の権益などを取得することが多かった。脱炭素の発想が加わることによって、そうした事業運営のあり方は大きく変化するだろう。例えば、次のような展開が考えられる。世界的なEV普及など自動車の電動化の加速などを背景に、バッテリーの部材などに用いられるレアメタルの採掘ニーズは高まる。増加する需要と、脱炭素に対応するために、世界の資源関連の企業は二酸化炭素排出量の少ない建機、再生可能エネルギー由来の電力利用のための蓄電システムなどを必要とする。わが国には、その分野で競争力を持つ企業が多い。
一方、住友商事は世界の資源大手企業との関係を持つ。住友商事はその強みを生かし、国内外の脱炭素関連のニーズと技術の新しい結合の実現を目指すだろう。自社で鉱山の権益を取得することに比べ、鉱山やエネルギー分野での脱炭素関連のコンサルティングや、メンテナンス事業の強化は、収益基盤の安定に資すと期待される。
現在では、台湾問題の緊迫化などを背景に、中国への依存度を引き下げようとする企業も増え始めた。短期的に、米欧の金融引き締めなどを背景に、世界的に設備投資は伸び悩むだろう。そうした中にあっても、アセアン地域やアフリカ、カナダやオーストラリアなどで脱炭素と脱中国を念頭に置いた資源開発は増えつつある。そうした事業環境の変化に対応しつつより安定した収益基盤を確立するために、住友商事にとって脱炭素関連の事業戦略推進の重要性は一段と高まっている。
(文=真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授)