「青山がとったダイソーに業態転換していくという方法は、新規事業にかける手間やノウハウの構築を必要としないため、手軽に空き店舗の再利用できるというメリットがありました。ですが、デメリットとして大創産業側に高額のフランチャイズの契約料を払わねばならず、ダイソーという人気ブランドのおかげで売上高は上がっても、実際のところあまり利益は出せていないということでしょう。
一方のAOKIは快活CLUBを自力で立ち上げ、その売上から高い利益を生み出しました。異業種にいきなり参入するのはハードルが高いように思えますが、実際ネットカフェビジネスはそこまで複雑ではないので、AOKIはあっという間にビジネスのコツを理解し、圧倒的な資本力でネットカフェ業界を席巻していきました。ネカフェ業界にとってAOKIの参入は『黒船到来』のように映ったはずですが、これはAOKIの経営戦略がお見事だったということです」(同)
売上高好調の青山だが、その実態はリスク覚悟で勝負に出ていたAOKIと違い、汗をかかずにラクをしていたようなものなのか。
「やはり青山には業界1位という肩書きがあるせいか、チャレンジ精神が足りなかった印象です。逆にAOKIは業界2位といっても年々需要が低下する紳士服業界にきちんと危機感を覚え、意欲的に新ビジネスを展開してきました。AOKI成功の要因は、そういったハングリー精神の強さが確実に関係していると思います」(同)
本業が斜陽産業となってしまった企業に求められるのは、AOKIのように多角化経営に本腰を入れていく視点なのだろうか。
「おっしゃるとおりです。スーツの需要は着実に減り続けており、紳士服業界は、カジュアルシフト、レディース取り込みに必死です。また今、多くの紳士服専門ブランドは量産スーツではなく、オーダーメイドスーツで利益を上げる方向に舵を切っています。これは、昨今のユーザーの嗜好を捉えたものではあるので、一定の需要は見込めるでしょうが、そもそもスーツを着るカルチャーが薄れつつあるので根本的な解決には結びつきづらい。だからこそ『乗っている船の補修』だけではなく、同時進行で『新たな船を造る』という経営が求められるわけで、AOKIはまさにそれで結果を出したわけです」(同)
最後に、AOKIの今後の戦略予想を聞いた。
「コート・ダジュールというブランドを確立したカラオケビジネスを、変化させていくのではないでしょうか。というのも、AOKIのカラオケビジネスは、コロナ禍の影響で1年ほど前までかなり客足が落ち込んでいたものの、さすがAOKIと言うべきか、実は客足が落ち込み始めた段階で、そのスペースを別目的で提供するビジネスの布石をすでに打っていました。それはオフィス環境を共有できるコワーキングスペースビジネスです。
近年、リモートワークの流行で、人に邪魔されることなく仕事ができるスペースを確保する難しさが叫ばれおり、コワーキングスペースの需要が高まっています。現在AOKIはこうしたコワーキングスペースを都心部で展開していますが、今後はそこで得たノウハウを生かして、郊外のロードサイドで紳士服店やカラオケ店を業態転換して、大規模なコワーキングスペースに改修するといった一手を打ってくるかもしれませんね」(同)
紳士服業界での成功に必死にしがみつくのではなく、時代の流れを読んで異業種にチャレンジしていくAOKIの経営センスには驚かされるばかり。縮小し続ける紳士服業界に依存しない同社が今後どんな躍進を遂げるのか、今後も目が離せない。
(文=A4studio、協力=中井彰人/流通アナリスト)