東芝、続く漂流、複雑な利害調整の壁…日本産業界の総力を結集した買収でも再建難航

 それだけではない。半導体分野では、メモリ半導体の在庫が積みあがり、価格が大きく下げた。一因として、スマートフォンやパソコンの需要減少は大きい。メモリ半導体市況の調整に直撃され、韓国のサムスン電子とSKハイニックス、米ウエスタンデジタルなどの業績は悪化している。米国のIT先端分野ではこれまで経済環境の悪化に対して抵抗力が相対的にあると考えられてきたクラウドコンピューティング需要も減少し始めた。いずれも、東芝にとって大きな逆風だ。東芝は社会インフラ関連事業の運営体制を強化してきたが、依然としてストレージ関連の収益は主要事業のなかで最大である。データセンタ向けなどの投資がさらに削減されれば、東芝が出資するキオクシアの業績下振れ懸念も高まるだろう。それは、東芝の再建に向けた協議にとって無視できない阻害要因になりかねない。

 また、世界的に設備投資のモメンタムが弱まり始めた。そう考える要因の一つとして、1月、国内の工作機械受注額(速報値)は前年同月比9.7%減だった。特に、外需に関しては同13.2%と落ち込み方が大きい。現在、業績予想を下方修正する電子部品メーカーなどは増えている。短期的に、設備投資を抑える企業はさらに増えるだろう。そう考える要因は多い。中国経済では過剰生産能力が蓄積されている。米欧などで金融引き締めは継続され、企業の利払い負担はさらに増えそうだ。設備投資の減少にともない、東芝が経営資源を再配分してきたエネルギーやインフラ関連分野の需要が減少する可能性も高まる。短期的に、東芝の業績懸念は高まりやすいと考えられる。

重要性増す迅速な成長戦略提示

 東芝経営陣は早急に中長期の成長戦略を策定し、成長の実現にコミットしなければならない。最大のポイントは、多様な利害を調整し、一つにまとめて東芝という組織全体が向かう方向を社会に明示することだ。これまで東芝は、財務内容の悪化や収益力の低下を食い止めるために、ある意味ではその場しのぎの対応に終始してきたように見える。しかし、資産売却などを永久に続けることはできない。それは最終的に東芝という組織そのものがなくなることにつながる。

 また、企業は社会の公器だ。特に、日本のようにモノづくりの力(製造業)を高めて経済成長を遂げた国において、東芝の持つ要素技術の重要性は一段と高まる。例えば、現在の世界経済では自動車の電動化、再生可能エネルギーの利用などを背景に、電圧管理などを行うパワー半導体の需要が増えている。東芝はパワー半導体関連の分野で世界的な競争力を保ってきた。JIPとともに東芝に出資が予想されているロームもパワー半導体関連事業の強化を急いでいる。

 東芝は量子コンピュータ関連の研究開発も進めてきた。それは、今後のITセキュリティーの強化や新しい素材などを生み出す技術(マテリアルズ・インフォマティクス)に大きな影響を与えると予想されている。国内の企業、金融機関連合による東芝買収が難航すれば、最終的に海外企業などが東芝に出資し、海外に技術が流出する恐れは増す。それは防がなければならない展開だ。

 そう考えると、東芝経営陣は多様な利害関係者の賛同を得られるしっかりとした再建方針、成長戦略を迅速に策定し、社会に示さなければならない。東芝の持つ要素技術が他の企業の製品やソフトウェアと結合し付加価値を生み出すために、今回の買収提案は非常に重要な機会になりうる。それが難しい場合、買収価格、今後の事業運営の方針、さらには収益ねん出のためのさらなる資産売却などをめぐり、物言う株主などと東芝経営陣の利害調整はさらに難しさを増すだろう。それに伴い、東芝の再建はこれまで以上に困難になると予想される。東芝の再建は、非常に重要な局面を迎えている。

(文=真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授)