「ほぼ日手帳」、高いのになぜ売れる?マーケティングの常識を根底から覆す商品開発

 筆者の知り合いに、長年「ほぼ日手帳」を使い続けている人がいる。その手帳を取り出し、何かを書き込む仕草から、その商品を愛し、また商品を使っている自分を誇らしく思っているように感じられた。一言で表すなら「すごい商品だな、なぜこの商品はこれほど愛されているのか」と。

 そのポイントは、まず「ほぼ日」全体に通じる「日常うれしいと思うこと」というユニークな価値の提供を目指し、一切の妥協なく、ユーザーと対峙してきた結果のように思われる。3.7ミリの方眼といった消費者参加型製品開発に加え、ユーザーの実際の使用例をサイトで紹介するなど、顧客との価値共創が見事に実現している。

 筆者の関心領域である「商品の高付加価値化(高く売る)」と絡めると、競合他社の販売価格や市場(消費者)が受け入れてくれる価格の調査といったマーケティングリサーチに基づき、ターゲット価格を設定し、商品開発を行うという一般的なスタイルは本当に正しいのだろうかと、今回の「ほぼ日手帳」のような事例に遭遇するたび、疑問を抱かずにはいられない。

 これまで多くのプレミアム商品を調査してきたが、共通するポイントは、売り手が信じる価値をどう具現化し、届け続けていくのかということであり、価格の問題は完全に後回しといった印象である。

「ほぼ日手帳」の開発に際し、もし入念なマーケティングリサーチが実施されていたなら、こだわり満載の2420円の手帳は誕生せず、誰にも見向きもされない、どこにでもある1000円程度の手帳になっていたのではないだろうか。

(文=大﨑孝徳/神奈川大学経営学部国際経営学科教授)