俳優の大沢たかおが、かわぐちかいじ氏の同名コミックを実写化する映画『沈黙の艦隊』に主演することが決定。「Amazon Original」映画として製作され、9月29日より劇場公開される。Amazon Prime Videoが日本映画の製作を手がけるのは初の試みだが、大規模予算を投じた超大作となりそうな気配で「景気のよさ」に業界内で注目が集まっている。
『沈黙の艦隊』は1988年から1996年にかけて『モーニング』(講談社)で連載され、日米共同で極秘裏に開発された高性能原子力潜水艦の艦長・海江田四郎が乗員76名と共に航海中に逃亡し、理想の世界をつくるために独立国家「やまと」を名乗って日米と攻防を繰り広げる物語。政治・軍事などへの問題提起を含んだ大胆なシナリオと、緻密な描写による海中戦闘シーンで人気を博した。
今回の実写映画版では、大沢が海江田を演じると共にプロデューサーにも挑戦し、発表と同時にティザー映像も公開された。監督は『ハケンアニメ!』のヒットで知られる吉野耕平氏が務め、制作は『キングダム』シリーズなどを手がけたクレデウスが担当する。
潜水艦のアクションが肝となるため、原作ファンの間では「実写化は不可能」とささやかれていた本作。かわぐち氏も発表会見で「テーマとスケールにおいて、絶対に実写化できないと思っていました」「最初にオファーがきた時に、なんと無謀なと思いました」と語っている。
だが、今作は防衛省・海上自衛隊の協力体制を構築し、日本で初めて海自・潜水艦部隊の撮影協力を得ることで本物の潜水艦を使用。リアルな艦体と現代のVFX技術との融合により、ド迫力の海中アクションを再現しているという。通常の日本映画なら予算規模的に原作ファンが心配になってしまうところだが、今作はAmazon Prime Videoの「本気」が感じられることで期待が高まっているようだ。
また、Amazon Prime Videoは3月9日から始まる野球世界一決定戦『2023 WORLD BASEBALL CLASSIC(ワールド・ベースボール・クラシック)』(WBC)の日本代表「侍ジャパン」の全試合と準々決勝、準決勝、決勝をライブ配信すると25日に発表した。スポーツの人気大会の配信は権利料や投資コストがかさみ、多くの視聴者を集めたとしても「赤字は確実」といわれている。
実際、昨年開催されたサッカー・ワールドカップ(W杯)カタール大会を無料配信したABEMAは週間利用者数を2倍超の約3400万人に増やし、親会社サイバーエージェントのABEMAを含むメディア事業の売上高は前年同期比34%増に達したが、W杯関連の投資コストがかさんだことで、2023年9月期第1四半期決算ではメディア事業の営業赤字が93億円に達してしまった。同社の広告事業とゲーム事業で計約102億円の営業利益を出したが、それがほぼ相殺される規模の大赤字だった。
しかし、爆発的に利用者が増える人気スポーツ大会を配信することでブランドが周知され、メディアの価値が大きく上がったと同社は分析している。事実、W杯をきっかけに初めてABEMAのアプリをダウンロードしたという人は非常に多く、通常の広告などでは得られないほどの認知効果があったのは間違いない。当然ながら資金力があってこそできる戦略だが、Amazon Prime Videoも「損して得取れ」でWBC中継を決断したとみられ、同社の「攻め」の姿勢がうかがえる。
躍進を続けていた動画配信サービス業界だが、最近はNetflixの利用者数が減少に転じ、作品の宣伝費などがかさんだことで利益も激減。今月発表された決算によると、同社の昨年10月から12月までの純利益はおよそ5500万ドルで、前年の同時期に比べて約90%も減少したという。
一方、先述したようにAmazon Prime Videoは「イケイケ」の状態、また、圧倒的なコンテンツの強さを誇るディズニー公式配信サービス「Disney+」も急伸し、アニメ系だけでなく日本発のオリジナルドラマで柳楽優弥が主演するヴィレッジ・サイコスリラー『ガンニバル』なども話題になっている。
Netflixが勢いを失ったことで「動画配信サービスのバブル終焉か」と見る向きもあったが、躍進するサービスもあることから、浮き沈みの激しい「戦国時代に突入した」といえるのかもしれない。