――自治体側から参考価格や「IRは考慮外」などの諸条件が示されているような状況で公的評価を依頼された鑑定士は「自由」な鑑定ができるものなのでしょうか。
竹内英二氏(以下、竹内) 自由な鑑定ができたかどうかは、参考価格がどれほどの意味があったのかにもよります。
暗に参考価格に近付けてほしいという比較的強い指示があったなら、各社がそこに近づける形で評価をしたものと思われます。
IRの考慮に関しては、逆に依頼者側が「IRを前提とする」という条件を付けない限り、鑑定評価でIRを前提に評価をすることは難しいといえます。
理由としては、評価の時点でIRは合法的に建てられる施設ではないからです。実現の蓋然性が低いものを、鑑定士が勝手に想定することはできません。今回は依頼者側からIR考慮外としたことから、現状で建てられるショッピングモールを前提に評価がなされたものと思われます。
3社の価格が一致したのは、参考価格の重圧が大きかったものと推測されます。仮に鑑定士が談合するなら、似たような価格をバラして出すといった談合をすると思います。鑑定士も同じ価格を出したら怪しまれることはわかっていますので、わざわざ談合して同じ価格を出すとは考えにくいです。
案の定、今回は3社の価格が同じことが疑われています。3社の価格が同じになった件に関しては、各社が参考価格に近付けようとした結果、たまたま同じになった可能性も捨てきれないと思います。
――大阪のIRは「前例のない複合施設の計画予定地」だったため、その予定地内に建設される最も収益性の高い施設(ショッピングモール)を基準に地価や賃料が算出されたとの説明がされています。一般的に「前例のない複合施設の地価調査」の場合、そのような手法が使われるということでいいのでしょうか。
竹内 「前例のない複合施設」という点は、あまり問題ではありません。評価時点で、実現性および合法性の面で条件が妥当と認められることが必要です。IRはまだ候補地段階であるため、実現性および合法性の面で妥当性を欠く設定条件となります。
大阪市は公的機関であることから、実現性および合法性で妥当性を欠く条件を要求するのが難しかったものと思われます。そのため、「IRであることは考慮外」としたことは、鑑定評価上は妥当です。前例のない複合施設であっても、実現性および合法性があるものであれば、予定している施設を前提に鑑定評価を行うことはできます。
(文=Business Journal編集部、取材協力=竹内英二/グロープロフィット社長・不動産鑑定士)