しかし、科技イノベ法は、科学技術に関する研究者や技術者を対象にしたもので、語学の授業のみを担当する非常勤講師は対象にならないと考えられる。専修大学でも科技イノベ法を根拠に語学の非常勤講師に5年での無期雇用転換を認めなかったが、大学を提訴した非常勤講師が一審、二審で勝訴した。事前に対象者であることを説明して契約する必要があるが、東海大学では何ら説明は行われていない。
また、任期法は適用できる教員の範囲を定めていて、適用する場合には大学はあらかじめ規則を定めた上で、特例を適用することの合意を教員本人から得ておく必要がある。ところが、東海大学は2013年まで両法を遡及して適用するという規則が2015年に作られただけである。そもそも、科技イノベ法と任期法を同時に適用することはできない。5年以上勤務する非常勤講師の無期雇用転換権を認めない理由に、2つの法律を使うのは無理があるのだ。
今回雇い止めを通告された非常勤講師の中には、25年以上勤務している人もいる。教職員組合に加入した講師のうち8人が2022年11月17日、東海大学を相手取り、「期間の定めのない労働契約上の権利を有する地位にあることを確認」することを求めて東京地方裁判所に集団提訴した。今回のストライキに参加したのは、このうちの5人だった。
2018年以降、多くの大学では5年以上勤務する非常勤講師の無期雇用を認めてきたが、大阪大学や慶應義塾大学、東海大学など認めない大学が一部存在する。さらに、科技イノベ法の対象で2023年4月に10年を迎える研究者らの雇い止めも懸念されている。
文部科学省は2022年11月、全国の大学などに対して「無期転換ルールの円滑な運用について(依頼)」と題した文書を出した。この文書では、次のように10年の特例を濫用しないように求めている。
「令和5年4月1日以降、10年特例の運用者について本格的な無期転換申込権の発生が見込まれますので、無期転換ルールの適用を意図的に避けることを目的として、無期転換申込権が発生する前に雇止めや契約期間中の解雇等を行うことは、労働契約法の趣旨に照らして望ましいものではないことに御留意いただき、引き続き10年特例の適切な運用に向けて万全を期していただきますよう、改めてお願いいたします」
労働契約法の趣旨からいえば、非常勤講師については5年で無期雇用転換権を認めることが求められる。にもかかわらず、東海大学の場合は10年の特例が適用されると主張している。さらに、文科省の見解は、10年の特例の対象だとしても、10年を目前にした雇い止めはすべきではないということではないだろうか。
東海大学は雇い止めの理由を、「人事刷新のため」と教職員組合に説明しているという。大学のホームページでは12月5日付けで「大幅な組織改編・カリキュラム改定を実施することになり、一部非常勤教員の契約終了に至ったこと、及び当該雇用契約は法令を遵守しており適法」と記載している。ストライキのあとも雇い止めの姿勢を崩していない。
しかし、東海大学の雇い止めは、法律の趣旨にも、文科省の「依頼」にも沿わないものなのではないだろうか。非常勤講師らは「無期転換を不当に妨害する行為」として、引き続き雇い止めの撤回を求めている。札幌キャンパスでも、1月17日にストライキが実施される予定だ。さらに数人が提訴を予定していて、集団訴訟は拡大する見通しだ。
(文=田中圭太郎/ジャーナリスト)