東京の大気の写真、51年前との違いが衝撃…「大気汚染解消」の陰に深刻な問題

 それと並行して都のほうでも、1949年の『工場公害防止条例』、1955年の『ばい煙防止条例』を制定し、対策してきました。そして、1970年代後半以降は都市生活型の大気汚染が問題となり、主な原因となった窒素酸化物(NOx)の総量規制を実施。また1990年には小規模燃焼機器から排出されるNOxや二酸化炭素(CO2)の削減のために、『東京都低NOx 小規模燃焼機器認定要綱』を制定し、大気汚染物質の削減のみならず、地球温暖化防止にも対策を施してきたのです」(同)

 このような取り組みが進み、都では大気汚染の深刻度が緩和されてきたようだ。そして、21世紀以降は移動発生源への規制にも取り組んできた。

「SPMの排出量削減に関しては、2003年開始のディーゼル車規制による影響がかなり大きいです。この規制により低硫黄軽油の早期供給やPM(粒子状物質)減少装置が実用化、普及し、低公害のディーゼル車の開発促進がもたらされました。こうした大々的な規制によって、開始からわずか2年で東京都はすべての測定局でSPMの環境基準を達成したのです」(同)

光化学オキシダントを完全になくすのは非常に難しい

 煙がかった光景が珍しくなかった昔に比べて、現在の大気環境は良好だといえるようだ。しかし、いまだに大気濃度が低下しない光化学オキシダントに関しては、課題が山積みだと語る。

「光化学オキシダントは、工場から排出されたNOxやガソリン、シンナーなどに含まれる炭化水素(HC)、トルエンやキシレンなどの揮発性有機化合物(VOC)が紫外線を受けて、光化学反応を起こすことにより生じる酸化性物質です。この光化学オキシダントが原因で光化学スモッグと呼ばれる白くモヤがかかったような現象が発生し、目の痛み、息苦しさ、頭痛などの健康被害をもたらします。

 1970年代からたびたび問題にされてきた光化学スモッグですが、実は太平洋側地域では現在も発生しています。環境省では光化学オキシダント濃度の1時間値が0.12ppmで注意報、0.24ppmで警報を発令していますが、令和3年度は全国で29日、都では6日もの間、注意報が発令されました。ここ数年は年平均濃度がずっと横ばいであり、減少傾向には至っていません」(同)

 大気濃度を減らそうにも、光化学オキシダントに限っては、反応の複雑さから対策が困難なようだ。

「光化学オキシダントは、工場や自動車から直接発生するわけではなく、大気中のNOxやHC、VOCが化学反応することによって発生する二次生成反応の物質。これまでもさまざまな施策が行われてきましたが、原因を完全に絶つのが非常に難しいです。今後は発生の元となるNOxやVOCを少しでも減らせるかが課題となってくるでしょう」(同)

 まだまだ改善すべきところがある現在の大気環境。今後の環境改善に向けて、どのような取り組みが行われているのだろうか。

「都では光化学オキシダントの濃度を2030年度までにすべての測定局で0.07ppm以下にするべく、環境改善に向けて取り組んでいます。とりわけNOx、VOCの排出削減に向けて、事業者や都民の自主的な取り組みによって推進する『Clear Sky実現に向けた大気環境改善促進事業』を掲げており、サポーター登録を事業者に促して、大気環境改善に取り組んでいます。NOx、VOCともに排出削減取組メニューが設定されており、事業者、都民の双方が協力して排出削減を目標としているのです。

 また当センターの調査で得た知見も有効活用できるかと存じます。当センターでは、東アジア地域における酸性雨の状況把握、影響の解明に向けた体制構築を目標とするEANET(東アジア酸性雨モニタリングネットワーク)の観測を続けてきたのですが、同観測において大陸からの越境汚染の影響度は少なくなってきたことも明らかになりました。そのため、この観測から得られる知見を都の環境教育に生かしていくことも有用と考えております」(同)

 目で見てわかるほどの大気汚染が減ったにせよ、光化学オキシダントの大気濃度はいまだに減少していないようだ。NOx、VOCなどの原因物質の排出削減を目指しつつ、我々も問題の当事者として大気環境に意識を傾けるべきだろう。

(取材・文=文月/A4studio)