なぜ今、高島屋の業績が急回復?百貨店業界の将来に影響、人々の生活環境を向上

 日本で、世界的な物価高騰、一時の急速な円安による輸入物価上昇によって電力料金などは上昇している。ウクライナ危機がどう収束するかは見通しづらい。エネルギー資源や穀物などの供給不安は長引きそうだ。高島屋がより強いコストプッシュ圧力に直面する可能性は高い。それは、販売管理費の増加につながる。それに対応するために、高島屋は外部に委託してきた業務の内製化を加速している。人件費を圧縮するとともに内製化を進めると、現場の負担は高まる。

 この問題を解決するために、デジタル技術を用いた業務の省人化は欠かせない。百貨店業界にとってデジタル化は不可避の変化であるが、それは店頭での販売力の強化よりも、むしろその裏側でより重要ではないか。顧客管理や潜在的な需要発掘に加えて、オペレーションに付随するコスト削減など顧客の目に見えない部分でのデジタル技術活用は注目される。反対に言えば、対面を中心に接客力をいかに磨くかは、百貨店にとって差別化要因だ。

 また、経営陣は営業力強化に取り組む考えも示している。その一つとして注目されるのは外商部の強化だ。現在の高額商品の売れ行きを見る限り、国内の個人消費が急速に落ち込む展開は想定しづらい。その状況下、富裕層の消費意欲は引き続き安定して推移するだろう。高島屋が磨いてきた顧客との接点を増やす力を高め、より多くの従業員がそのノウハウに習熟する環境を整備する。それは、営業力を向上させる一つの要因になるだろう。顧客が安心、満足して買い物を楽しむことのできる環境を整備し、より良い購入体験を創出する。それによって高島屋の外商、店舗の両面における営業力は向上するだろう。このように考えると、デジタル技術の活用を増やして業務運営に必要な人員を減らし、顧客向けのサービス提供を強化することは、今後の成長戦略のコアになるだろう。

SC運営のさらなる強化期待

 今後、高島屋は国内事業の構造改革をさらに強化するだろう。その中で注目されるのは、SC運営力の強化だ。百貨店事業では店舗のコスト構造の見直しがさらに強化され、固定費の削減が徹底されるだろう。背景の一つとして、世界経済にとって感染症のリスクは一段と高まっている。2022年12月上旬以降、中国ではゼロコロナ政策が緩和された。しかし、病床確保などウィズコロナ移行の準備は不十分であり、規制緩和とともに感染者は急増している。中国の個人消費がかなりの期間にわたって停滞する恐れは増している。

 米国では中国の感染再拡大によってさらなるウイルス変異への不安が高まっている。また、FRBやECBの利上げ継続によって、米欧の個人消費にも下押し圧力がかかる。インバウンド需要が回復し始めたことは高島屋にとって重要だ。ただ、さらなるインバウンド需要の増大を前提に事業を運営することは現実的ではない。まずは国内でしっかりと収益を獲得できる体制を確立しなければならない。

 そのために注目されるのは、百貨店運営で培われた動線の確立を多面的に活用することだ。そのカギを握るひとつは、高島屋子会社の東神開発だ。同社は「流山おおたかの森S・C」などの運営を担っている。それによって、食品スーパーや生活雑貨店、映画館など生活を充実させる環境が整えられた。つくばエクスプレスの運行、便利な都市環境の整備などの結合によって、千葉県流山市の人口は増えた。高島屋のノウハウはそれを支える要素の一つだ。

 子育てのしやすさ、住みやすさなどにおいて高島屋グループの暗黙知を活用できる部分は多い。コロナ禍の発生によって、より良い所得や就業の機会を得るために大都市に住まなければならないという既成概念は大きく変わっている。それは、わが国だけでなく、世界各国に共通する変化といえる。当面、世界経済は物価の高騰や金利上昇、地政学リスクの高まりなどによってかなり不安定に推移するだろう。その状況下、国内で高島屋は百貨店やSCを中心によりよい人々の生き方を提案するという意味での付加価値力の発揮を目指すだろう。それによって、国内外の百貨店ビジネスなどにどういった変化が現れるかは興味深い。

(文=真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授)