武田薬品、シャイアー巨額買収の効果が着実に発現…メガファーマ化が急加速

 ただ、高いコストを支払って取得した資産が、想定された通りの収益獲得につながらないケースもある。武田はニンバスの新薬が開発の後期段階にあり、競合薬に対して高い競争力を発揮できる可能性も高いとしている。しかし、それは今後の臨床試験の結果などに大きく影響される。臨床試験を重ねて有効性が確認されるまでに、想定された以上の時間がかかる可能性も軽視できない。また、供給などの問題によって治療薬の製造が中止されることもある。2022年10月4日に武田は、副甲状腺の機能低下症治療剤に関して供給課題を理由に世界全体での製造を中止すると発表した。

 ある意味、そうしたリスクを負担することは、メガファーマとしての成長を目指すための宿命だ。新薬候補を増やすための買収などの資金をねん出するために、武田は前倒しで債務の圧縮を進めた。2019年3月末、シャイアー買収によって武田の社債と借??の総額は5兆7,510億円に増加した。武田は大衆薬事業などの売却や収益の拡大によって獲得された資金を用いて債務の返済を前倒して進めた。その結果、武田の財務内容は改善した。2022年9月から10月にかけて、国内の大手信用格付け業者は武田の信用格付けを引き上げた。

予想される武田の成長戦略の主な内容

 以上より、武田が進めると予想される成長戦略は次のようにまとめられる。まず、有力な新薬候補、あるいはその創出体制の強化スピードを徹底して引き上げる。そのための一つの手段になるのが買収だ。自前での研究開発が、必ず新薬の供給につながるとは限らない。リスクを分散するためにも、スタートアップ企業などの買収はさらに増えるだろう。有望な治療薬候補を増やすことができるか否かは、メガファーマとしての競争力にかなりの影響を与える。

 その考えに基づき、世界中で有望な治療薬候補を持つ企業を買収しようとするメガファーマは増えている。米ファイザーは新型コロナウイルスワクチンの供給によって得た資金を活用して、競合他社の買収に積極的だ。新型コロナウイルスの感染症が発生したこともあり、世界全体で人々の健康、安心への欲求も一段と高まっている。それを満たすために、希少疾患分野などでの世界的な買収競争は一段と熱を帯びるだろう。武田はより迅速かつ、ファイザーなどに見劣りしない規模感で新薬の開発や買収、提携などを増やさなければならない。

 次に、キャッシュフローの創出を強化することがある。いくつかの方策があるなかで、まずはこれまでの買収によって取り込んだ資産とのシナジー効果をより大きく発揮することが求められる。武田は、バイオ薬品に加えて、ワクチンの供給にも力を入れている。その一つとして、武田はインドネシアからデング熱ワクチンの承認を得た。米国での審査も進んでおり、中長期的な収益獲得の期待は高まっている。その背景として、自社の研究開発体制の強化は大きい。それに加えて、シャイアー買収による米食品医薬品局(FDA)との交渉力の強化なども大きく影響しているだろう。

 また、競合製品の登場などによって収益性の低下した資産を売却することによって財務体力を高めることも欠かせない。想定された以上に時間とコストがかかっている新薬開発の中止という経営陣にとって苦渋の決断をしなければならないケースも増えるだろう。このように買収などによって資産、新しい知見の獲得を加速度的に増やしつつ、財務面のリスク管理とキャッシュ創出力の強化を徹底して進めることが求められる。それは、武田のさらなる成長に大きく影響するだろう。

(文=真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授)