実力で下回るルノーに支配される日産自動車の不満…出資比率引き下げ交渉、難航の背景

 日産は内燃機関事業への出資は見送った。その一つの要因は、中国企業への技術流出を食い止めることがある。吉利はボルボの内燃機関事業を取り込み、独メルセデスベンツなどにも出資して、急速に製造技術を吸収してきた。日産の出資は敵に塩を送ることになりかねない。また、ルノーのEV事業に日産がどう参画するかに関して、事態は一段と複雑とみられる。

 ルノーはクアルコム以外にもグーグルやダッソー・システムズ、SAPなどとも連携を強化しEVシフトに対応しようとしている。特に、車載用のソフトウェアの設計と開発に集中してきたIT先端企業にとって、日産のもつEVのハードウェア分野の特許は、魅力的な知的財産だ。ルノーの筆頭株主であるフランス政府の意向も日産の今後に大きな影響を与える。フランスは、再生可能エネルギーと原子力などの発電源を組み合わせつつ、ハードとソフトの両面でEV設計・開発、さらには受託を含めた生産能力を強化しなければならない。そのために仏政府が再度、ルノーを通して日産への影響力を強める可能性は排除できない。

 なお、ルノーと合弁会社を設立する吉利は、EV事業も強化している。もし、今後のルノーとの協働に関する日産の意思決定に想定される以上の時間がかかると、ルノーは日産以外の企業との連携をさらに強化する可能性は高まる。

日産に求められる選択と集中

 日産は能動的に長期の視点で事業運営体制を強化できるか否か、非常に重要な局面を迎えている。今後のポイントは、日産がどうなりたいと思うか、だろう。それがルノーとの新しい提携のあり方を含め、同社の長期存続に決定的なインパクトを与えるはずだ。

 世界の自動車産業では、異業種からの参入増加などによって再編が激化している。ルノーとの出資比率引き下げをめぐる交渉が長引くと、日産は環境の変化に乗り遅れ競争力の低下がより鮮明となる恐れが高まる。日産経営陣は、迅速にルノーとの新しい資本関係、その後の事業運営のルールを確立しなければならない。その上で、経営陣は選択と集中をより明確に利害関係者に示す必要がある。

 端的に、内燃車とEVの両方で成長を目指すか、それともEVの分野に徹底して集中して自己変革を加速させるか、といった基本指針の明確化が求められる。それは、車載用のソフトウェアなどの開発を共同して進める提携先企業の選定、あるいはEV開発のための国内外のIT先端企業との関係強化に無視できない影響を与えるだろう。国内企業が設立したEVの新会社に日産が出資し、ルノーとクアルコムを上回る製品の創出を目指す発想があっても良い。いずれにせよ、日産経営陣はかなりのスピード感をもって一連の取り組みを進めなければならない。そうした展開が現実のものとなれば、日産はルノーとのアライアンスをより有利な立場から運営することが可能になるかもしれない。

 ただ、昨今の日産の業績、経営陣の説明を見る限り、組織全体でスピード感と情熱を高めて変革を実行しようとする勢いが高まっているとは考えづらい。それだけ、ゴーン時代の負の遺産が積み重なり、組織の士気は停滞しているとも考えられる。そうであるからこそ、経営陣は新しい企業を生み出す気概をもって、将来像を社内外に示し、より多くの賛同獲得を目指すべきだ。それができるか否かによって、日産の中長期的な事業運営には無視できない影響があるだろう。

(文=真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授)