なぜソフトバンクGは突然、行き詰まったのか?要のファンド事業が全滅の背景

 コロナ禍が発生して以降、世界の株式市場では超低金利環境の継続期待に支えられてスタートアップ企業への投資熱が大きく高まった。その状況下、FTXは米ドルのキャッシュではなく自社が開発した仮想通貨であるFTXトークン=FTTの価値高騰によって、資産規模を膨らませた。同社を起業したサム・バンクマン-フリード氏は政治献金などを積極的に行い、一時、「天才経営者」「仮想通貨の救世主」として注目を浴びた。競合他社に先駆けてバンクマン-フリード氏に出資し、高い成長を取り込もうとする主要な投資ファンドが増えた。

 こうして資金繰りなどに対する不安を、過度な成長期待が上回ったのである。買うから上がる、上がるから買うという根拠なき熱狂が沸き起こった。同様の心理は、米国の新規株式公開(IPO)市場にも当てはまる。2020年4月以降の米国株式市場では特別買収目的会社(SPAC)による買収を経由してIPOを行う企業が急増した。SBGが出資するシンガポールのGRAB(配車アプリ)や米国のバークシャー・グレイ(人工知能とロボット開発)などもSPAC買収によるIPOを果たした。

 SBGが熱狂に巻き込まれ、勇み足気味にスタートアップ企業に出資した可能性は慎重に考えるべきだ。2022年11月のFOMCにてパウエルFRB議長は、インフレ鎮静化は道半ばと述べた。米国のインフレ率は依然として高い。金融引き締めは主要投資家の想定以上に長引く可能性が高い。金利は上昇し、米国経済の減速は避けられない。それは新興企業の業績、財務に無視できない打撃を与える。株価により強い調整圧力がかかる展開は否定できない。それが現実のものとなれば、SBGはより強い逆風に直面するだろう。

アリババに続く高成長企業の発掘は急務

 当面の間、SBGアリババ株の放出によって純利益をねん出しなければならない状況が続きそうだ。かつて、孫氏はSBGを“金の卵を産むガチョウ”になぞらえたことがある。その核に位置づけられるのがアリババだ。孫氏は、アリババ創業者のジャック・マーの才覚を見抜き、いち早く出資した。その後のアリババの急成長がSBGの投資ビジネス拡大を支えている。

 ただ、いずれアリババ頼みの事業運営は限界を迎えるだろう。アリババの成長期待は大きく低下している。習近平政権によるIT先端企業への締め付けは、一段と強まっている。習氏は、自らの支配体制を強化している。そのために、情報統制は強化されている。貧富の格差拡大の食い止めのための共同富裕政策もより強力に推進される可能性は高い。結果的に、アリババの事業運営はより強く制約されるだろう。コストカットのためにアリババは一段とリストラを強化せざるを得なくなるだろう。それはSBGの資金調達、投資実行にとって無視できない不確定要素といえる。

 別の観点から考えると、SBGはアリババに続く高成長の可能性が高い企業を複数発掘しなければならない。現時点でその候補に挙がっているのは英国の半導体設計企業であるARM(アーム)だ。決算説明会にて、孫氏はアームの成長加速と、より高い価格での株式再上場の実現に集中すると表明した。中長期的な目線で世界経済の展開を予想すると、ウェブ3.0の到来などによって最先端のロジック半導体需要は増えるだろう。それは、アームのチップ設計技術を増加させる要因の一つになる。

 そうした世界経済の環境変化のダイナミズムをよりよく取り込む一つの方策として、SBGは最先端の半導体製造技術などを持つ企業により積極的に出資する展開が考えられる。そのためにSBGは構造改革を加速しなければならないだろう。既存ポートフォリオのリスク管理体制の強化は避けられない。高い成長が期待される企業家を見抜く人材の登用も急がなければならない。それは、ソフトウェア関連企業に加えてハードウェア企業にも資金を投じ、リスクを分散することに寄与するだろう。世界的に株価の調整懸念が高まりやすい状況であるだけに、SBGは正念場を迎えている。

(文=真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授)