日産自動車で進行する「販売台数減少」の深刻な現実…財務の脆弱化リスク上昇

 そうした要素が日産の収益獲得に大きなマイナスとなったことは言うまでもない。コストカットのために、2014年にゴーンが開始した新興国向けブランドの「ダットサン」は2022年4月に生産が終了した。その結果、2017年度に577万台だったグローバル販売台数は、2021年度、387.6万台に減少した。2022年度4~6月期の販売実績は81.9万台と前年同期比で約22%減だ。

 今後、日産の事業運営体制が追加的に脆弱化するリスクは高まっている。特に、ウクライナ危機などによる世界的なエネルギー資源や食料価格高騰のインパクトは大きい。欧州では急速に景気後退懸念が高まっている。不動産バブル崩壊などによって、中国の景気後退不安も高まっている。さらに、米国ではインフレを鎮静化するために、FRBが大幅な追加利上げなど金融引き締めを実施しなければならない。それによって、世界経済を下支えしてきた米国の労働市場は悪化し、個人消費は減少するだろう。その展開が現実のものとなれば、世界全体で自動車の販売台数は一段と落ち込む。日産の収益にはより強い下押し圧力がかかりやすい。

 一方、日産は世界全体で加速するEVシフトにも対応しなければならい。中国ではEVなど新エネルギー車の販売が増えている。しかし、9月の日産の中国の販売実績は前年同月比11.8%減だ。一つの見方として、想定されてきた以上に日産は世界の消費者が欲するEVなどを迅速に供給し、需要を取り込むことが難しくなっている。ウクライナ問題等によって世界経済の先行きは一段と見通しづらい。その状況下、ルノーは日産との事業面でのアライアンスは維持しつつも、より効率的な資本の再分配を目指しているようだ。

経営陣に問われる改革をやり切る覚悟

 世界の自動車産業では、大手自動車メーカーの経営統合、異業種を巻き込んだアライアンスなど、これまで以上に経営体力の強化が問われている。より多様な人材、より多くの事業運営資金を確保して、EVなどの設計開発に取り組む。EV生産の外注、あるいは受託製造を目指す企業も増えている。

 その背景には、世界の自動車業界が100年に1度と呼ばれる変革期を迎えたことが大きい。特に、脱炭素を背景とするEVシフトによって、自動車製造のあり方は、内燃機関などのすり合わせ技術をコアとしたものから、デジタル家電のようなユニット組み立て型生産に急速にシフトしている。これまでのように、労働集約的かつ、下請け、孫請けからなる重層的な産業構造を維持する必要性は低下する。参入障壁は低下し、新規参入も増えている。

 ネット空間との接続、自動運転などの技術を実装するためにIT先端企業と自動車メーカーの連携強化も不可欠だ。ソニーとホンダがEVの共同事業を開始した。トヨタ自動車はスズキやスバルなどとの提携を強化してきた。さらにトヨタは、国内販売会社の資金調達を集約して行うなど、事業運営体制を一段と強化している。

 本来、日産自動車はより多くの企業と提携を強化し、より多様な発想を組織に取り込まなければならない。その上で、これまでにはないEVなどを創出し、脱炭素をビジネスチャンスに変えることが求められる。そのためには、ホンダが表明したように、エンジン車の生産から脱却するタイミングを明確に表明するなど、改革を強化するしかない。言い換えれば、既存の事業運営の発想から脱却し、新しい価値観を組織に浸透させることが不可欠だ。それが経営者の使命である。

 世界の自動車市場の環境激変、当面の需要の減少が懸念されることも踏まえると、コストカットの強化も避けられないだろう。経営陣は、日産が目指すべき姿を明確に示し、組織を一つにまとめてスピーディーに事業構造の改革を進めなければならない。経営陣が強い覚悟をもって人々により高い満足感を与えるゼロエミッション車などの創造に取り組むことが、これまで以上に求められる。

(文=真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授)