その結果、コマツは急激、かつ深刻な中国の建機需要減少に直面した。2021年4月から2022年6月まで建機などの需要(台数ベース)は前年同月比で2ケタ台の減少を記録した。6トン以上の油圧ショベルに関しては本年8月まで需要が減少している。「KOMTRAX(コムトラックス、コマツが開発した建機のIoTシステム)」が収集した建機の稼働時間を見ると、上海のロックダウンが解除された6月以降、落ち込み幅は幾分か緩和してはいるが、建機の利用は依然として停滞している。8月には共産党政権が2020年を上回る約1兆元(約20兆円)の景気対策を追加したが、中国経済が上向く兆しは見られない。中国の高度経済成長は終焉を迎え、建機の需要拡大ペースは拡大期から停滞期に移行し始めたと考えられる。
そうした変化に対応するために、コマツは石炭向け鉱山機械事業の一部を中国企業に売却する。業績に与える影響は軽微との会社発表がなされたが、コマツにとって今回の資産売却の意味は相当に重いはずだ。中国は世界第2位の経済大国だ。コマツ社内には、市場シェアを維持するために事業運営体制を保つべきとの考えも強いだろう。また、中国は異常気象などによる国内の電力供給不安に対応するために、石炭を増産している。本来、それはコマツにとって、ジョイ・グローバル買収の成果をより大きく発揮するチャンスになるはずだ。しかし、そうしたベネフィットを上回るほどに、中国におけるコマツの供給能力は過剰になっていると考えられる。
コマツは、中国以外の市場における成長戦略を強化すべき局面を迎えた。例えば、インドネシアでは中国の寧徳時代新能源科技(CATL)、韓国のLG化学、現代自動車グループなどがリチウムやニッケルなどの採掘、加工、車載用のバッテリー生産、さらにはEV生産までを一貫で行う体制を整備している。
中東、アジア、オーストラリアや米国などでは、欧州などへの天然ガス供給体制の強化が急がれている。ウクライナ危機以降、世界経済がブロック化した。新しいエネルギー資源などの供給体制の再構築は急務だ。アセアン諸国、米豪などにおけるエネルギー、鉱山資源の採掘や生成、それを支えるインフラ整備は増えるだろう。それは建機の需要を押し上げるだろう。
コマツは、中国以外での国と地域での建機需要の獲得を、これまで以上に強化すべき時を迎えた。そのために、建機の電動化の推進は欠かせない。鉱山開発などから排出される二酸化炭素の回収・貯留(CCS)などの研究・開発の強化も競争優位性の向上につながる。それらは、今後のコマツの事業戦略のポイントといえる。
一方、世界全体でコマツを取り巻く事業環境の厳しさは急速に増すだろう。世界の主要投資家は中国から海外に資金を逃避させている。米国や欧州などの中央銀行はインフレを鎮静化させるために、かなり急速に金融政策を引き締めなければならない。それによって、世界全体が深刻な景気後退に陥る恐れは高まっている。コマツは強まる逆風に対応すべく、コストの削減をさらに強化するだろう。
その上で、中長期的に増加が期待されるリチウム鉱山開発などに必要な建機の供給能力を高めなければならない。今後の展開によっては、中国関連資産の追加売却など、リストラが一段と強化される展開も想定される。先行き懸念が高まる中、コマツが迅速に成長期待の高い市場、技術に経営資源を再配分し中長期的な収益力をこれまで以上に高めようとするか否かに注目が集まるだろう。
(文=真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授)