なぜ東京都にのみ、こんな時代錯誤な制度が残ってしまっているのか。
「東京のみ残っている理由は、実質的に都教育委員会と私立中高が話し合う場である協議会の存在が大きいといえます。協議会には、東京には私立の女子高が多いため、都立校が一定の定員数を設けることで、私立の女子校の経営が傾かないようにしていたという、ある種の共存措置を図ってきた背景があり、これを理由に男女別定員を続けていたのです。
ですが近年は少子化の時代で女子高も共学化が進んでいます。さらに、現在の4年生大学進学率は男女ともに50%を超えているため、女子は4年制大学への進学率が低いから募集枠も少なくていいという、男女差別的なかつての理屈は通らなくなっています。そのため保守的な教育業界のなかにある都教育委員会も、ようやく男女別定員の完全撤廃にむけて本格的に動き出し、昨年、段階的な撤廃に踏み切ったというのが現在の状況なのです」(同)
とはいえ、完全撤廃に向けて段階的に撤廃が進んでいる現在も、男女別に定員が定められていることで不当に不合格になる女子が存在している。なぜすぐに完全撤廃できないのか。
「トイレや更衣室の問題など、女子入学者数の急な増加の対応が難しい学校が多いという事実も否定できません。しかしこういった問題は一時的であるため、男女別定員を維持する理屈としては厳しいでしょう。だからこそ段階的な措置というかたちが折衷案になったということです」(同)
教育業界における今回の男女差別問題は「無意識下の心理作用」による影響も強かったのではないかと、石渡氏は分析する。
「アンコンシャスバイアス、すなわち無意識の偏見というものがあります。例えば、男女別の名簿をつくるときに、男子の名前が先にあり、女子の名前が後にあることなどです。そもそも男女で名簿をわける必要はないので、最近では男女別名簿が減ってきていますが、このように『男が先、女は後』という偏見を無意識下に植え付けるような事例はまだまだ多く潜んでいます。結果的に、このアンコンシャスバイアスは女性の社会進出を阻む大きな一因になっていると考えています」(同)
今後、受験における性差別をなくすためにできることはあるのだろうか。
「アンコンシャスバイアスをいかになくすかが重要だと思います。料理は女子がやるべき、体育祭の応援団長は男子がやるべきなど、無駄に男女の役割をわける時代はかつてのものです。また、理工系は男子の進学先、といった認識もアンコンシャスバイアスといえるでしょう。理工系へ進む女子はまだ男子と比べて少ないですが、今や理工系へ進む学生は社会において需要が高いため、今後は性別の関係ない進学先になるはずです。
昔からの慣習や育った環境によって、アンコンシャスバイアスは誰もが持ちうるものですが、そういった先入観をひとつずつつぶしていく必要があると思います。ですから、まずは学校教員や保護者などの教育に携わる方々が、意識的に偏見を取り払ったうえで進路やキャリアを考えていけるようになるといいでしょう」(同)
男女別定員のような差別のない教育を実現するためには、自分自身が無意識のうちに偏見を持っているという自覚をして、子どもたちの未来を考えていく必要があるのかもしれない。
(取材・文=うらま/A4studio)