また、以下は国土交通省が調査した、テレワークの継続意向などです。
「中小企業のテレワーク実施状況に関する調査」(東京商工会議所)に筆者加筆
先ほどのA子さんは結局、産業医である私と面談しました。「在宅勤務なら勤務できるから仕事をしたい」とおっしゃっていましたが、すでに不眠や気分が不安定などの精神症状がありましたので、出社勤務はもとより、勤務自体も不可能と判断し、産業医としては休職をすすめました。
A子さんのように、出社勤務できないけど家でなら仕事できるという方が最近とても増えています。現在、会社に出社指示を出されて困っている社員から相談されている内容について多いのは以下のようなものです。
・未就学児の子育てをしている
・小中学生の不登校の子供をもっている
・親の在宅介護をしている
会社の制度には、子育て期間中などには時短勤務などの勤務形態もあるのですが、時短勤務ではなく、通勤時間が節約できる分を利用して在宅でフルタイム勤務がしたいという声も多くあります。出社となると早く帰宅しなくてはならず残業はできないが、在宅勤務に切り替えることで夕方から21時頃までの子育てにとってのゴールデンタイムの後なら残務も可能で、より効果的に仕事ができるという人もいます。
このように私のところに相談にくる社員は、この2年での家庭の環境変化に伴い、「在宅だから勤務を継続できる」という人が多くいらっしゃいます。本来なら休職を余儀なくされた状況下で、期せずして与えられた「在宅勤務」という暫定的な就業環境下でなんとかやりくりしていた人です。しかし、出社勤務が義務化され、その環境が変わりつつある今、メンタル不調に追い込まれ会社に在宅勤務の継続を求めるという状況になっているのです。
その一方で、在宅勤務によるメンタルヘルス不調者の面談もこの1年で急増しています。当初は心地良く在宅勤務していたのに、だんだん不眠や気力の低下が目立ってきた、といった訴えです。そのため、医師としては全面的に在宅勤務に賛成というわけではありません。もちろん、それぞれの社員の私生活での役割の下、一定のルールを守りながら実施するのであれば、企業と社員双方にとって在宅勤務は有益なものといえるでしょう。
家庭の事情はさまざまであり、会社がそのすべてに配慮していては始まりませんが、一人でも多くの人が退職を回避し労働市場から離れて行かないよう、また追い込まれてメンタル不調による休職にならないよう、会社にも予防的な柔軟な対応が求められているのではないでしょうか。
(文=矢島新子/産業医、山野美容芸術短期大学客員教授、ドクターズヘルスケア産業医事務所代表)