1989年に40歳の若さで亡くなった俳優の松田優作を「デジタルヒューマン」として復活させるプロジェクトの一環として、妻の松田美由紀が監修したショートムービーが優作の誕生日である21日に公開された。
いまは亡き名優らを現代に蘇らせる技術に期待が集まる一方、ネット上では「ファンとしては複雑」「違和感がある」といった声もあり、賛否を呼んでいるようだ。
「デジタルヒューマン」は、人工知能やCG、モーションキャプチャーといった技術を駆使し、過去の偉人の姿を再現したもの。東映のツークン研究所は2019年から研究を進め、今年3月にその技術を使った松田優作の復活プロジェクトが発表されていた。
今回公開された30秒ほどのショートムービーでは、優作が過去の出演作を彷彿とさせるようなハードボイルドな雰囲気の中で車を走らせる場面からスタート。優作が生きていた時代にはなかったスマートフォンで通話する姿が表現され、Zippoライターでタバコに火をつける本人そっくりのしぐさや特徴的な低音ボイスなどが再現されている。
映像監修を務めた妻の松田美由紀は、「形を追い求めるのではなく私の中の記憶、優作への想いを頼って一歩一歩近づいていく。圧倒的に強いオーラ。それだけを感じながら制作のお手伝いをしました。どんどん顔に魂が吹き込まれていくから不思議。ぜひ現代の優作に会ってみてね」などとコメントしており、最も近くで彼を見てきた自身の記憶や想いをこめたものに仕上がったようだ。
これにネット上では「現代を生きる松田優作、見てみたい!」「タバコ吸うしぐさがそっくり、すごい技術だなあ」「将来、往年の名優たちが全盛期の姿で大集合するオールスター映画ができそう」「いつかブルース・リーの新作アクションとかも作れるのかな」などと感心と期待の声が集まった。
だが、その一方で「不気味の谷が……当時からのファンからすると表情も声も違和感ある」「亡くなってるのに新作映像って、本人は望まないんじゃないかな」「時代の空気も含めてのスターだったのだから、無理に復活させる必要はないのでは」「優作が生きてたらスマホ持たないと思う」といった否定的な意見も多く噴出している。
デジタルヒューマンをめぐっては、2019年末のNHK『紅白歌合戦』に「AI美空ひばり」が登場し、新曲を披露したことでも物議を醸した。
本人の膨大な音声データを基にヤマハのAI技術で歌声を再現したもので、CGによって現代に蘇った姿で歌唱する様子に対して「歌のクオリティが高くて感動した」「CGが不気味だし、勝手に新曲を歌わせるなんて死者への冒涜に感じる」などと賛否両論となった。
今回の松田優作のムービーに対しても、AI美空ひばりと同じく少なくない拒絶反応がある。こうした世間の反応は、いわゆる「不気味の谷」の問題なのか、それともモラル的な問題なのか。
今後も同様の「復活プロジェクト」は増加していくとみられるが、技術の進歩に伴う世の中の受け止め方の変化にも注目が集まりそうだ。