過去11年、子どもの学習障害や注意欠如多動性が急増…腸内環境が影響との報告も

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「gettyimages」より

 今、腸内環境や腸内細菌叢(腸内フローラ)への注目が高まっている。特に、脳腸連環として腸内環境がヒトの脳の活動に影響を与えることが明らかになってから、うつ、発達障害、自閉症、学習障害にも腸内環境が影響を与えていることが世界的に報告されている。

 このようななかで、私たちが摂取している食品に含まれる食品添加物や残留農薬、残留抗生物質が、腸内環境や腸内細菌叢に影響を与えているのではないかという懸念が広がっている。たとえば、「科学」(岩波書店/1046号)掲載の論文・木村-黒田純子「除草剤グリホサート/『ラウンドアップ』のヒトへの発がん性と多様な毒性」には次のように書かれている。

 

「腸内細菌叢は免疫や代謝を介してヒトと相互作用をとりながら、人体の健康に重要であることがわかってきている。腸内細菌叢の構成の変動や特定の菌の異常増殖/減少はディスバイオシスと呼ばれ、ヒトの腸管のみならず、全身の免疫、代謝に異常を引き起こし、自己免疫疾患、関節リュウマチ、自閉症、多発性硬化症など様々な疾患に関与している可能性が示唆されている。グリホサート/グリホサート製剤による腸内細菌叢への悪影響が、自閉症発症と関わっている可能性について複数の論文が出されている」

 さらに、神戸大学の星信彦教授は2月、「ネオニコチノイド」完成記念シンポジウムで行った講演「ネオニコチノイド系農薬のシグナル毒性と子どもの発達」で、農薬ネオニコチノイドの投与によって腸内の乳酸菌が減少し、それが腸内細菌叢の異常を引き起こすことを明らかにした。そして、「うつ病患者では腸内細菌叢の異常が観察される」「腸内細菌叢の変化はストレスによる絶望行動の発症と関連する」ことを明らかにした。

 グリホサートもネオニコチノイドも日本で使われている代表的な農薬である。グリホサートは除草剤として、ネオニコチノイドは殺虫剤として広範に使われており、グリホサートは人の髪の毛から、ネオニコチノイドは幼児の尿からも検出されている。

求められる食品安全委員会による評価

 しかし、食品安全委員会はこの2つの農薬について安全であるとの食品健康影響評価をして、その使用を認めている一方、腸内細菌叢に対する影響評価はしておらず、以下のような批判が出ている。

「ヒトの腸内環境は、常在する腸内細菌叢などの外的要因や消化管機能などの内的要因が絶妙に相互作用して正常に維持されている。このバランスは、食生活や食品中の化学物質によって変動し、3大死因である癌・心疾患・脳血管疾患や食物アレルギーの発症・悪化要因になる可能性が指摘されている。昨今の食環境に対する安全への懸念や健康への関心の高まりも相俟って、食品やその添加物には安全であることが強く求められており、今後の食品安全の確保においては、従来手法のみにとらわれることなく、消化管内環境や腸内細菌叢の視点から安全性を科学的かつ包括的に評価する必要がある」(吉岡靖雄<大阪大学薬学研究科>「腸内フローラ解析を基盤とした食品ナノマテリアルの安全性評価」より)

 2006年から17年の11年間で子供の自閉症、学習障害、注意欠如多動性が急増していることが統計上明らかになっている(文部科学省調査・指導実施数の推移より)。自閉症は3912人から1万9567人と5倍に、学習障害は1351人から1万6545人と12.25倍に、注意欠如多動性障害は3912人から1万6135人と4.12倍になっている。

 食品安全委員会は腸内細菌叢問題を食品健康影響評価の柱に据え、再評価作業に取り掛かるべきである。

(文=小倉正行/フリーライター)