白人至上主義の思想は米国の中に常に存在してきたものの、エスタブリッシュメントによってこれまで社会の片隅に追いやられていた。だが、トランプ氏は政権の4年間で中南米からの移民流入に厳格な姿勢を示し、白人至上主義の思想を積極的に否定しなかったことから、今や共和党のメインストリームの思想に取り込まれてしまったというわけだ。ウォルター氏は「民族アントレプレナーの主張は一般の国民にまで広く浸透しつつある」と危惧の念を抱いている。
今回の騒動に話を戻すと、トランプ氏の支持者が集まるSNSには当局への反発を示す暴力的な書き込み(「FBIを皆殺しにしろ」など)が相次いでおり、FBI捜査員協会が11日「捜査官への脅迫が急増している。法執行機関への暴力を助長するものであり、容認できない」と非難する声明を出す事態となっている。
内戦といえば、19世紀半ばの南北戦争を想起しがちだが、ウォルター氏によれば、米国で今後起きるであろう内戦は「反乱」の様相を呈する可能性が高いという。米国のように強力な軍隊を擁する国では政府に反発する集団は複数に分かれ、強力な正規軍との直接対決を避けつつ、テロやゲリラ戦を展開し、インフラや民間人などソフトターゲットを標的にする傾向が高いというのがその理由だ。「指導者なき抵抗」と呼ばれるもので、泥沼の状態が長期化しやすい。
国民の団結を訴えて選挙に勝利したバイデン大統領の下で、皮肉なことだが、米国の分裂状態はベトナム戦争時代より深刻になっているといっても過言ではない。「21世紀の米国で内戦など起こりえない」と高をくくってはいられなくなっている。「米国で今後内戦が発生する」と断言するつもりはないが、米国の深刻な分断状況をかんがみれば、今後最悪の事態が発生することも想定しておくべきではないだろうか。
(文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー)