前回述べたように、タクシーはすでに韓国の現代自動車(ヒョンデ)が「アイオニック5」を販売しており、BYDもフリート販売向けのMPVタイプのBEVを試験販売として、タクシー事業者に納めている。公共交通機関では、すでに外資ブランド主導で車両電動化が進んでいるといっていいだろう。
政府としても、国際公約したものの、日本メーカーでめぼしいものがなければ外資ブランドに頼らざるを得なくなるだろう。そもそも、2021年暦年締めの年間販売台数で見ても、中国国内で約2700万台の新車が販売されたが、その中で新エネルギー車(BEV、PHEV<プラグインハイブリッド車>、FCEV<燃料電池車>)の販売台数は約350万台で全体の13%強となっている。政府の力が強く、その政府が強く指導する中でも、車両電動化のスピードは意外なほどスローとなっている。
中国ほど強い指導力があるわけでもなく、民間への丸投げ体質の目立つ今の日本政府で、果たして13年後あたりに電動車以外の販売を禁止できるのかは怪しく思えてくる。最後は“弱者救済”などを建て前に“軽自動車など一部車種に限りガソリン車を継続販売”といった事態も十分考えられる。
BYDは日本市場で乗用車販売へ参入するのと同時に、自前の充電施設も設置していくとしている。BYDのような中国系企業から見れば、日本政府の動きはスローすぎて見え、政府を頼るとあまりに面倒だと考えているのかもしれない。
今後、BYDに続けとばかりに他の中国系メーカーも日本市場に参入してくるとは、単純に考えられない。中国国内のBEVの駆動用バッテリーは地産地消、つまり中国メーカー製となっており、品質面でそのまま海外展開をクリアできるメーカーはBYD以外ではほとんどないともいわれている。
ただ、たとえばタイでは上海汽車と長城汽車がすでに中国からBEVを完成車輸入して販売しているのだが、2023年からはタイ国内で製造し販売する予定となっている。タイは日本同様左側通行なので右ハンドル仕様となる。日産「キックス」や三菱「ミラージュ」もタイから完成車輸入して販売しているので、タイ製の中国メーカーのBEVを完成車輸入し、日本国内で販売されるなんてことも現実化するかもしれない。
すでに海外では、日本の完成車メーカーでの“日の丸BEV(つまり完全自前)”開発について、“人(エンジニア)、金(開発予算)、時間(開発期間)がない”状態になっていると言われていた。端から見れば難局を迎えているように見える日系完成車メーカーだが、腰が重い印象に映る中では、現状を切り抜けるのはまさに至難の業のように見えてしまう。このまま外資に市場が飲まれていくのか、それとも日系メーカーが外資モデルのOEMでしのぐことになるのか。国際競争力を失ったともいわれる家電の二の舞いだけはくれぐれも避けてもらいたいと、クルマ好きの筆者は考える。