ウクライナでは1986年、チェルノブイリで世界最悪クラスの原子力災害が発生している。想像したくないことだが、万が一、ウクライナで再び深刻な原子力災害が発生するような事態となれば、その悪影響は計り知れない。
国際エネルギー機関(IEA)は6月30日、「2050年までに温暖化ガスの排出を実質ゼロにする目標を達成するためには世界の原子力発電の設備容量を現在の2倍にする必要がある」との報告書を公表した。これを実現するためには原子力への投資額を3倍超に引き上げる必要がある。欧米諸国は一斉に「原子力シフト」に舵を切り始めており、日本政府も「今年の冬の電力を確保するため原子力発電所を最大9基稼働させる」との方針を示している。
だが、ウクライナで深刻な原子力災害が発生すれば、世界の人々は「原子力発電所は深刻な放射能漏れを起こす危険性がある」ことを改めて痛感することになり、原子力推進にとって「とてつもない逆風」となってしまう可能性が高い。現下のエネルギー危機は1970年代の石油危機時よりも深刻だ。危機を乗り切るための「切り札」である原子力を着実に推進するため、国際社会はウクライナ・ロシア両軍に原子力発電所に対する戦闘行為を直ちに停止するよう求めるべきではないだろうか。
(文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー)