2021年後半以降、世界のスマートフォン出荷台数の伸びは鈍化した。まず、コロナ禍の発生によってテレワークが増え、スマートフォン需要が一時的に急増した。それによって、かなりの需要が満たされた可能性がある。その後、需要は徐々に減少している。まず、中国では不動産バブル崩壊の後始末が拡大するなどし、経済成長率が急速に低下している。4~5月にはゼロコロナ政策が徹底されたことによって動線が寸断され、個人消費が大きく落ち込んだ。
それに加えて、米欧ではインフレを退治するために中央銀行が金融引き締めを徹底して強化せざるを得ない。米国では、住宅市場の悪化が鮮明だ。欧州でも景況感が急速に悪化している。アップルは日本でのiPhoneなどの販売価格を引き上げ、ドル高による収益悪化を食い止めなければならない。その結果、4~6月期の世界のスマートフォン出荷台数は前年同期比8.7%減少の2億8600万台だった。韓国のサムスン電子はベトナム工場でのスマートフォン生産を削減した。それに加えて、パソコンの需要も減少している。中国では2022年上半期の新車販売台数が前年同期の実績を下回った。
世界的に銅や鉄鋼石などの価格は下落している。デジタル家電や自動車、インフラ投資などの需要が世界全体で一段と減少する恐れが高まっている。米欧の中央銀行はインフレ退治を断固として進めるために大幅な追加利上げを余儀なくされるだろう。それによって、米国では徐々に労働市場の改善ペースが鈍化し、個人消費にブレーキがかかりやすい。スマートフォンなどの需要は一段と落ち込む可能性が高まっている。世界経済を下支えしてきた米国の個人消費の減少が鮮明化すれば、世界のスマートフォン需要はより急速に減少するだろう。そうした展開に対する警戒感を背景に、村田製作所では在庫が増加している。
世界経済の先行きは楽観できなくなっている。中国では徐々に生産活動が回復してはいるものの、不動産バブル崩壊などによって経済成長率の低下傾向が鮮明だ。それは、村田製作所にとって逆風だ。生産高の減少が続けば、固定費の負担が増す。それによって、営業利益率が追加的に低下する恐れがある。
逆風が強まるなかで、村田製作所はスマートフォンに続く収益源開拓の取り組みを強化している。その一つが、カーエレクトロニクスを支える電子部品の供給力強化だ。CASEの加速によって自動車に用いられる半導体は増える。それは高湿・高温・高電圧耐性に優れた積層セラミックコンデンサやインダクタの利用増加につながるだろう。
また、脱炭素の分野でも村田製作所のビジネスチャンスは増えるはずだ。再生可能エネルギーの利用増加のためには、様々な自然環境(海上、水中、高温多湿など)に耐えうるコンデンサなどの需要が高まる。また、世界全体でIT先端分野ではクラウドの利用増加が加速している。5G通信技術の導入も世界各国で加速するだろう。いずれの分野でもより小型であり消費電力性能が高い、高熱にも耐えられるといった高い付加価値を持つコンデンサやフィルタ、基盤、インダクタなどの需要が増えるだろう。
さらに、世界のIT先端分野ではブロックチェーンなどを用いて個人や企業が自らのデータを管理し、より能動的にネット空間とかかわるウェブ3.0を目指す取り組みが加速している。それによって、新しい素材、電子部品の需要は加速度的に増えるだろう。
村田製作所は短期的な事業運営の逆風をしのぎつつ、これまで以上のスピードで新しいモノを生み出す体制を徹底して強化しようとするだろう。そのスピードを高めることによって、世界経済の最先端分野で同社がライバル企業に先駆けて高付加価値の電子部品などを生み出すことはできるはずだ。それによって、同社がより効率的に収益を手に入れ、成長を加速する展開を期待したい。
(文=真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授)