なぜ埼玉県の平均価格が上がっているのでしょうか。要因として考えられるのが、埼玉県の住宅地としての人気がこのところ年々着実に高まっているという点です。東京圏のなかでは、神奈川県が東海、関西方面への玄関口であれば、埼玉県は上信越、東北方面の玄関口として発展してきました。特に、大宮駅は東北、上越、北陸などの新幹線が乗り入れ、在来線も京浜東北線、埼京線、湘南新宿ラインなどがあって、さまざま方面に直結しています。駅周辺には大規模商業施設も充実しています。
浦和駅も埼玉県の経済・社会の中心として発展、特に文教エリアとして知られ、閑静な住宅地が広がっています。この大宮と浦和が両輪となって埼玉県、さいたま市の住宅地としての人気を高めているといっていいでしょう。
リクルートの『SUUMO住みたい街ランキング2022首都圏版』では、大宮が初めてベスト3にランクインしました。長年ベスト3の常連だった恵比寿を押し退けてのベスト3ですから、たいしたものです。浦和も負けてはいません。図表3にあるようにこの3年は10位、8位、5位と人気が急上昇しています。長く埼玉県、さいたま市の社会・経済の中心でしたから、街としての成熟度が高く、大規模開発などが難しい状態ではありますが、久しぶりに駅前での再開発による超高層マンション計画が表面化しています。2、3年後にはその販売が始まり、かなりの高額になるのではないかと見込まれています。
そのほか、川口市でも超高層マンションが相次いで建設され、川口市初の億ションも販売されましたが、最上階の高額物件から売れるという人気でした。また、川越市、所沢市などでも超高層マンションや大規模物件が供給され、これまでにない価格帯で販売されるようになっています。
「SUUMO住みたい街ランキング2022 首都圏版」発表! | 株式会社リクルート (recruit.co.jp)
あまり供給が増えると供給過剰になり、価格が下がるのではないかという懸念もありますが、首都圏のなかでも埼玉県は人口が増え続けており、そんな心配はいらないようです。特に、新型ウイルス感染症拡大でリモートワークが定着し、東京の都心やその近くでなくてもいいのではないかという考え方が広がって、郊外のターミナル駅の人気が高まっています。浦和、大宮のほか、川越、所沢などもその影響を受けています。
コロナ禍で東京を脱出する動きが目立ち、東京都への人口転入が減少し、特に東京23区では2021年の転入超過が2014年以降では初めてマイナスになりました。都心やその周辺から、郊外や地方へ移住する人が増えています。
その受け皿のひとつになっているのが、埼玉県や神奈川県です。図表4にあるように転入超過数をみると、東京都は大きく減少しているのに対して、神奈川県では3万人以上増え、埼玉県も3万人近く増加しているのです。
住民基本台帳人口移動報告2021年(令和3年)結果 (stat.go.jp)
市区町村別にみると、2021年に全国で最も転入超過数が多かったのはさいたま市の1万527人でした。2020年は横浜市が1万2447人でトップだったのが、2021年には1万123人に減少、代わってさいたま市がトップに立ったわけです。特に年齢区分でみるとさいたま市では0歳~14歳の転入超過数が多いのが特徴で、それだけ子育て世帯の転入が多くなっていると考えられます。その子どもたちのいる世帯のうち、かなりの人たちが埼玉県の新築や中古マンションを購入して移り住んでいるのではないでしょうか。
今後もそうした人口流入が続き、それに支えられて埼玉県のマンション価格が一段とアップ、東京都下や神奈川県の水準に近づくのではないかとみられます。
(文=山下和之/住宅ジャーナリスト)