パワー半導体の基板は、セラミックスの両面に無酸素銅板を貼り付けることによって生産される。その際に課題となってきたのが基盤の反りだ。まず、基盤の裏と表に貼り付けられる銅の薄い板の厚みを均一にすることが難しい。次に、厚みの異なる極薄の銅板を基板に貼り付ける際に熱が発生し、反りが生じる。
さらにパワー半導体の使用時にも熱が発生し、基盤が膨張、収縮することも反りを助長する。その結果、チップが割れたり絶縁部分が剥離したりする問題が起きる。言い換えれば、銅部材の厚み(製造の精度)と純度がチップの耐久性に大きく影響する。
古河電工は反りの問題を解決するためにロジック半導体向けの部材製造で培った圧延技術を応用し、無酸素銅条の厚みのばらつきを従来の半分に抑えることに成功した。それによって基盤の反り軽減が期待される。その効果は大きい。半導体の歩留の向上をはじめ、製造時に排出される二酸化炭素の削減、チップの耐久性の向上、さらにはより薄い基盤の実現など、素材分野のイノベーションによってパワー半導体産業の成長は加速するだろう。
世界経済の環境変化は激化し先行きは楽観できないが、半導体部材分野で古河電工のビジネスチャンスは拡大する。世界全体でより多くの半導体が使われるようになる。自動車の電動化、家庭や生産現場などでのIoT関連機器の導入の増加、デジタル家電の普及、脱炭素を背景とする再生可能エネルギーの利用や送配電インフラの整備などの分野で、より多くのパワー、ロジック、メモリ半導体が必要とされるようになる。そうした展開を念頭に、国内のパワー半導体メーカーは、資源価格の高騰など先行きの不透明感が強い中にあっても生産能力の強化に取り組む企業が多い。同じく古河系の企業である富士電気がパワー半導体の事業運営体制の強化を急ぐのは代表的なケースだ。
古河電工がそうした需要を確実に手に入れるためには、無酸素銅条製造技術の向上のように、より微細かつ高純度の素材の製造技術に磨きをかけることが欠かせない。光ファイバーや超電導技術など脱炭素や高速通信など成長期待が高まる分野でも、古河電工は世界的な競争力を発揮している。
また、同社は顧客の製造工程で生じた銅スクラップなどをリサイクルして無酸素銅条を製造する技術も確立している。経営陣は、国内外のIT先端企業や半導体メーカーなどとの連携を強化し、さらには自社の脱炭素への取り組みを加速させることによって、高付加価値素材の製造技術に磨きをかけ、その実用化を加速させるべきだ。それは同社だけでなく、わが国パワー半導体産業の競争力向上にも無視できない影響を与えるだろう。
世界的に資源価格が高騰して企業の事業運営コスト増加懸念が高まるなど、事業環境の厳しさは増している。口で言うほど容易なことではないが、先行きの不確定要素が高まる状況下であるからこそ、経営陣には最先端分野での研究開発体制を強化し、新しい素材の製造技術実現により集中してもらいたい。そうした事業運営の方針がより鮮明になることによって、同社の成長期待は一段と高まるだろう。
(文=真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授)