コロナ禍で飲食業界全般が不況にあえぐ中、回転寿司店は好調が続いている。帝国データバンクの調査によると、スシローやくら寿司など大手を中心とした事業者売上高ベースは、10年前の4636億円(2011年度)から1.6倍(2021年度)に拡大。前年から約600億円増加(8.3%増)し、過去最高水準の7400億円超えを記録する見込みだ。
また、大手5社の店舗数は約2200店(2022年2月末時点)となり、コロナ前の2019年度から150店増加、10年前からは800店増加し、この10年で1.6倍に拡大している。回転寿司業界が好調な理由について、帝国データバンク情報統括部主任の飯島大介氏に聞いた。
――回転寿司業界は絶好調ですね。
飯島大介氏(以下、飯島) その背景には、ファミリー層の需要増があります。今や回転寿司店はデザートやラーメンなどのサイドメニューが充実しており、300~400円の価格帯の商品も増えています。いわばファミレス化していることで、幅広い客層の獲得に成功しているのです。一方で、地方のチェーン店では、帰省時や観光客向けの需要が復調傾向ではあるものの、本格的な回復基調にまでは至っていません。
家計消費の面では、テイクアウト需要をつかんだハンバーガーに次いで好調で、21年度(2月まで)は前年を約1000円上回る年間1万2624円となっています。過去最高だった19年度に迫っており、10年前からは1.5倍に伸びています。15年度を100とした場合の推移では、外食全般が68ポイントと減少傾向の中、回転寿司は118ポイントと堅調ぶりが際立っています。
――スシロー、くら寿司、はま寿司など大手の強みはなんでしょうか?
飯島 これは大手に限らないことですが、今や回転寿司店はかつてのファミレスのような役割を担っている点が強みでしょう。寿司だけでなくサイドメニューを充実させることで、家族連れが気軽に足を運べるような立ち位置を確立しました。ファミレスより単価が低く、いろいろなものを少量ずつ食べられる上に、クオリティも高い。そのため、コスパを重視する消費者からは圧倒的な支持を集めています。また、回転寿司店は郊外のロードサイド店を軸に拡大しており、そうした立地が、クルマで移動することの多いファミリー層の集客に奏功しています。
――最近は外食産業でも値上げラッシュが続いていますが。
飯島 ウクライナ情勢に伴い、ロシア産水産品の禁輸や物流網の制限などで世界的に魚価が高騰しています。すでにイクラやサーモンなどの定番商品を値上げしたチェーンもあるほか、業界内からは「高級ネタを割安に提供する販促キャンペーンが打ち出しにくい」という声も上がっています。もともと回転寿司店は原価率が5割前後と高く、昨今の円安も重なって、大幅なコスト上昇が避けられません。そのため、今後はこれまでのように「1皿100円」で食べられなくなる可能性もあり、それがどう客足に影響するかが注目されます。
――回転寿司店の「1皿100円」時代が終わりを迎えるかもしれない、ということですか。
飯島 価格設定は各社の経営戦略や供給体制によって左右されるので、一概に判断するのは早計ですが、今は食品を中心に物価が上がっているため、今後は回転寿司店も値上げせざるを得ないと思います。すでに昨年10月からスシローが10~30円値上げしましたが、これにより他社も追随しやすい環境ではあるでしょう。とはいえ、安く食べられる魅力は近年の回転寿司人気を押し上げた要因でもあるので、「1皿100円」を維持ししつつ、高価格帯の商品を値上げするという動きもあるかもしれません。
――今後の回転寿司業界の動向についてはいかがでしょうか?
飯島 今や回転寿司店は一昔前のファミレスのような場になっており、幅広い客層を獲得できているので、今後も大きく落ち込むことはないでしょう。しかし、出店数はひと頃の勢いとは異なり頭打ちの傾向もあります。郊外では顧客の奪い合いを避けるために、一定地域内に集中して出店するコンビニのような戦略は採りづらい。そのため、業界内からは「ロードサイドで好立地の出店は限界を迎えている」との声もあります。
そこで、新たにターミナル駅近隣に小規模店を出店するなど、これまで手薄だった都市部の開拓を強化する動きがみられます。たとえば、スシローやくら寿司は八重洲の地下街や新宿への出店も目立ちます。これまでメインの客層はファミリー層でしたが、これからはビジネスパーソン向けへのシフトも進んでいくでしょう。この動きは、回転寿司業界の転換点となるかもしれません。