インボイス制度では、今まで通り今後も免税事業者のままでいるのか、預かり消費税を国に納める課税事業者になる(登録する)のかを、原則23年5月までに選択しなければなりません(経過措置期間等があるので、詳細は国税庁のホームページを参照してください)。今まで通り免税事業者として預かり消費税を国に納めなくても構わないのですが、免税事業者になると不利になることが予想されています。
例えば、課税事業者であるA社が10,000円の商品(非食品)を消費者に販売した場合、消費者から10,000円の代金と1,000円の消費税を受け取ります。この商品の仕入額が8,000円の場合、A社(買い手側・発注する側)は仕入業者(売り手側・フリーランスのような仕事を請け負う個人事業主)には代金の8,000円と消費税の800円を支払います。現在は、A社は受け取った消費税1,000円のうち、仕入業者に支払った800円との差額の200円を国に納めています。
ところが、インボイス制度がスタートすると、仕入業者が課税事業者の場合は、買い手側(仕事を発注する側)が仕入業者に支払った800円の消費税を国に納めてくれるので、今まで通り、200円の消費税を国に納めればよいのですが、仕入業者が免税事業者の場合は、買い手側(仕事を発注する側)が、免税事業者が支払うべき消費税800円を立て替えて国に納めなければなりません。買い手側は、仕入業者(売り手側)に免税事業者が多いと、立て替えて支払う消費税が非常に多額になるので、できるだけ課税事業者と取引をしたいはずです。そうなると、免税事業者には仕事を依頼しなくなる可能性があります。
もう一つの懸念は、仕入業者が免税事業者の場合、買い手側が今までは税抜10,000円だった仕入商品を、税込10,000円、あるいは10,000円以下と、実質値下げを要求する可能性があることです。商品(仕事)を発注する側は、どちらの場合も、あからさまに行うと「優越的地位の濫用」となり独占禁止法違反に問われることになるので、「他の事業者に変更した」とか「物価高騰で不景気なので値下げしてくれないかといった要求をする」ことになるかもしれません。
もちろん、免税事業者の消費税を立て替えてでも、従来通りの金額で取引をしたいということもあるでしょうが、「今まで通り免税事業者でも心配ない」と強気でいられる売り手側は少ないでしょう(ただし、買い手側・発注先が、免税事業者とか簡易課税制度を選択している場合、今後どうするかを確認してください)。
課税事業者になるか免税事業者になるのかの踏み絵を突き付けられる個人事業主は、フリーランス、演劇・映画・音楽・出版関係等、ライター、脚本家、構成作家、カメラマン、エンジニア、プログラマー、コンサルタント、カウンセラー、デザイナー、Webデザイナー、建設業関係の一人親方、スポーツ選手、学習塾、料理・ヨガ・音楽・英語教室等、生命保険・損害保険・モバイル関連の代理店等、多種多様な分野に及びます。
その他、注意しなければならない業種として、顧客である会社に対し、経費の証明として領収書を発行する飲食店や個人タクシー、文具店、雑貨店などがあります。会社の経費で処理する場合も、インボイス制度が大きく関係してきます。
課税事業者である企業の社員が経費を使った場合、会計処理上必ず領収書が必要になりますが、購入先の事業者が課税事業者なのか免税事業者なのかを明確にしなければなりません。インボイス制度がスタートすると、領収書発行者が課税事業者か免税事業者なのかで、会計処理が変わってきます。例えば、飲食店が免税事業者の場合、領収書を受け取った企業は、飲食店が支払う消費税分を立て替えて国に納めなければなりません。