暗号資産市場が世界の金融経済に影響を及ぼせる規模にまで拡大した点も見逃せない。昨年11月のピーク時に約3兆ドルとなった暗号資産全体の時価総額は、米国のGDP(23兆ドル)と比べればたいしたことはないかもしれないが、金融の世界では大きな存在感を有するようになっている。ピーク時の時価総額は米国の社債市場市場(53兆ドル)の5%を超えており、深刻な金融危機を引き起こすのに十分な規模なのだ。
2008年のリーマンショックの原因となった債務担保証券(CDO)の市場規模は2000億ドル程度だったが、高レバレッジ商品だったことから、裏付けとなっていた不動産市場が下落し始めると、信用市場全体の破綻を招く引き金となってしまった。
2008年の金融危機の前兆現象は、追加証拠金の要求に応じられなくなった業者が相次いだことだが、同様の事態は暗号資産業界で既に起きている。リーマンショックのひそみにならえば、テラの急落が暗号資産の世界におけるベアー・スターンズだとすれば、リーマン・ブラザーズの破綻のような状況が間近に迫っているのかもしれない。暗号資産の急落が金融危機の引き金にならないことを祈るばかりだ。
(文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー)
●藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー
1984年 通商産業省入省
1991年 ドイツ留学(JETRO研修生)
1996年 警察庁へ出向(岩手県警警務部長)
1998年 石油公団へ出向(備蓄計画課長、総務課長)
2003年 内閣官房へ出向(内閣情報調査室内閣参事官、内閣情報分析官)
2011年 公益財団法人世界平和研究所へ出向(主任研究員)
2016年 経済産業研究所上席研究員
2021年 現職