セブン&アイ・ホールディングス(HD)の百貨店子会社そごう・西武の売却に向けた2次入札に、投資ファンドの米ローンスターとシンガポール政府系ファンドのGIC、米フォートレス・インベストメント・グループの3社が応札した。1次入札は2月21日に締め切られ、外資系投資銀行や多数の投資ファンドが手を挙げた。4社が残り、2次入札に進んだ。5月23日が2次入札の締め切りだったが、1次入札で残っていた米投資ファンドのブラックストーンは参加を見送った。
セブン&アイHDは提示額や売却後の雇用などの条件を精査し、早ければ夏にも最終候補を選定する。ローンスターは日本では20年以上、活動している。最近では大江戸温泉物語ホテルズ&リゾーツを米投資ファンドのベインキャピタルから買収した。GICは西武ホールディングスから「ザ・プリンスパークタワー東京」など30施設を買い取った。ソフトバンクグループが子会社にしたフォートレスは日本郵政から宿泊施設「かんぽの宿」の29施設を譲り受けた。3つの陣営とも日本での不動産投資を加速させている。
セブン&アイHDは2006年、ミレニアムリテイリング(現そごう・西武)を現金と株式交換により2000億円超で子会社にした。店舗数は完全子会社となった07年2月期の28店舗から、現時点では10店舗に減った。
21年9月、西武池袋本店の不動産管理会社のセブン&アイ・アセットマネジメントを吸収合併した。22年春には、そごう・西武の本社を東京・四ツ谷の二番町センタービルから、旗艦店の西武池袋本店内に移転した。そごう・西武の22年2月期の売上高は前期比3.8%増の4469億円、最終損益は88億円の赤字(21年2月期は172億円の赤字)だった。
百貨店の売り上げは前年の営業時間短縮や入店者数の制限の反動もあって前年を上回った。旗艦店である西武池袋本店の売上高は1540億円、そごう横浜店は949億円、そごう千葉店は656億円で2ケタの伸びを見せた。レストランは営業時間の短縮や酒類提供の制限など厳しい環境が続いた。
JR池袋駅に隣接した一等地にある西武池袋本店の不動産管理会社を吸収合併した効果は数字に現れた。家賃の負担がなくなり営業損益は35億円の赤字(21年2月期には66億円の赤字)と赤字が縮小した。純資産は前期比43%増の641億円、総資産は26%増の4340億円と大幅に増えた。その一方で負債の合計も23%増の3698億円に膨らんだ。
西武池袋本店の不動産管理会社を取り込んだのは西武・そごうを高値で売却するためである。M&A業界筋の話では、「そごう・西武の売却額は2000億円以上になる」との見方がある。だが、2000億円あまりの長短借入金のほか、グループ内融資のかたちで約1000億円をセブン&アイから借りている。
2000億円で買収すれば、負債と合わせて実質的に5500億円前後の大型の買収案件となる。地盤低下が著しい百貨店を、そんな大金をはたいて買い取って、はたしてペイするのか。金融機関は買収資金の融資にかなり慎重だと指摘されている。
ファンド各社が東京都心の一等地にある西武池袋本店や西武渋谷店に強い関心を持っているのは間違いない。狙いは不動産だ。不動産取引と割り切るとしても、ことはそう簡単ではない。池袋本店は西武鉄道とJRが乗り入れる池袋駅の上に建っている。しかも土地の6割程度を西武ホールディングスが保有しており、簡単には売却できないし、売るつもりもないとされる。
自前の土地で商売をしている三越伊勢丹などと違って、そごう・西武の場合は土地のほとんどが借地で、上物の建物だけを持っている。長年にわたって、そごう・西武が苦戦してきた最大の理由は、高い地代と人件費にあるといわれている。地方などにある不採算店の扱いも難題だ。百貨店で働いている2100人の社員の雇用をどうするかが焦点となる。社員の雇用の継続などで手足を縛られたままだと、ファンドが買収するメリットは限りなく小さくなる。
首都圏の主要店舗を再開発するには莫大な資金が必要だ。結局、店舗ごとを切り売りするしか手はないのではないか。3つのファンドはどのような成算を持っているのだろうか。「どこが落札するかより、3陣営のビジネスの展望に興味がある」(M&Aに詳しい外資系証券会社のアナリスト)。
(文=Business Journal編集部)