東芝、取締役が投資ファンドの利益代弁者たちに牛耳られる

 取締役会の議長候補にはM&A助言会社GCAの創業者で、現M&Aアドバイザリー会社フ-リハン・ローキー会長の渡辺章博氏を選んだ。新任取締役の候補には、IHIで取締役財務部長だった望月幹夫氏もいるが、事業を実際にオペレーションした経験者は少ない。

 取締役の候補は社外取締役5人で構成する指名委員会で決めた。指名委員会の委員長は東芝が2019年にアクティビストとの協議を経て受け入れたファラロン出身のレイモンド・ゼイジ氏。ゼイジ氏が今回、アクティビスト幹部の受け入れを主導した。ファラロンは東芝株式を5.30%保有している。この結果、ゼイジ氏と今井氏がファラロンの出身となる。アナリストからは「特定の株主の意見が強く反映される懸念がある」と危惧する声が上がっている。

 東芝内部は株式の非公開化に慎重な意見が多いが、ファンド側は積極的だとされる。東芝は当初、5月13日に取締役候補を発表する予定だったが、「独立性や利益相反の有無などについて確認すべき点がある」として、発表を急遽、中止していた。人事案(新任取締役)への株主総会での株主の判断が東芝再建の行く末を占う試金石となる。

社外取締役が「物言う株主」の増員案に反対

 東芝のジェリー・ブラック社外取締役(指名委員会委員)は6月3日、報道各社のオンライン取材に応じ、指名委員の一人である綿引万里子・社外取締役(元名古屋高裁長官で弁護士)がファラロンと米エリオット・マネジメントから幹部を1人ずつ新たに社外取締役を受け入れることに反対したことを明らかにした。

 社外取締役5人で構成されている指名委員会では、さまざまな意見が出ても最後は全会一致となることが多いが、今回は多数決で取締役候補を決めたことになる。株主総会の招集通知の欄外に「候補者選定に異論があった」ことが注記された。定時株主総会の取締役の選任に、反対者がいたという異例ともいえる事実が影響するかもしれない。

 綿引社外取締役は6月6日、報道陣の取材に応じ「取締役会構成の多様性、公平性、バランスの良さを欠いていると判断した」と説明した。「定時株主総会で株主の皆様に判断してもらうため、私が反対した理由を伝えたかった」とし、「経営は株主と目線を合わせていくことが一番大事だが、東芝の場合、株主の目線があまりにもいろいろな方向を向いていて、一つの方向になっていない。短期的な利益を目的とする株主や長期保有の機関投資家、個人の株主など、それぞれの利害がまったく違う」と問題点を指摘した。

 加えて、綿引氏は現状の取締役会について「事業経験のある人が欠けたことが、この1年の迷走の一つの原因と考え、私自身も深く反省している」と述べた。

(文=Business Journal編集部)