事業会社が余剰資金を活かして関連事業を営む会社や技術を買収する、投資ファンドのような活動をする子会社・部門でCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)を始めることが流行ってきています。驚くことに、そうしたCVCでもLBOを使うことが出てきています。少し前にも某大手企業のCVCで実施されていました。買われた会社の社員は大手企業の傘下に入れたことを喜んだのもつかの間、その先は残念ながら奴隷のように働かざるを得ない可能性が高いです。
事業会社のCVCは、基幹事業のシナジーがある関連事業を中期的に伸ばすために外部の会社や技術を取り込むのが基本なのに、LBOで相手会社の社員を痛めつけてグループに取り込むのは本末転倒ではないかと思います。
資本家は圧勝するからいいですが、買収された会社の経営者は、資本家に指名されて就任しているものの、絵にかいたような板挟みになります。がんばって結果を出している役員や社員の給料を上げたいものの、会社からカネが一気になくなるので、おいそれと人件費に回せません。そして、過大な借金を背負っているという状況を社員にストレートに説明できません。
「どうして儲かってるのに給料上がらないのですか?」
「借金がたくさんあるから」
「そんな借金するほど、うちの会社って良くなかったんですか?」
と聞かれた時に、「いや、前オーナーがごっそり持っていったから」とか「現オーナーが自分自身の身を切りたくなかったから」とは言えません。
こうした会社の経営の現場にいると、「資本家圧勝、労働者完敗」のこのやり方は法律で規制したほうが良いとまで思ってしまうこともあります。そもそも一般の社員は、自分の会社がどのように買われたか? など知ることもできず、しばらくの間は「なんかおかしいな」とも思いません。
しかし今、この手法が制限されるようになるかもしれない動きが出てきています。金利の上昇です。今までは低金利とカネ余りで、借りる側は「いくらでもカネを調達したほうがいい」、貸す金融機関は「安全に貸せる会社には、たくさん貸したほうがよい」という状況でした。しかし今後は金利の支払いをシビアに考えないといけなくなる可能性が高いので、やすやすと会社に重い負債を背負わせにくくなります。
今後、高金利は多くの会社にとって業績の下方圧力になります。インフレも進めば生活は大変になっていくでしょう。しかし、「がんばってきたがゆえに巨額の借金を背負わされる可哀想な会社と社員」がなくなっていくのは、良いことかもしれません。
(文=中沢光昭/株式会社リヴァイタライゼーション代表)