安倍晋三も手の平で踊らせる…岸田首相「したたか戦術」で参院選は自民党勝利へ

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首相官邸のHPより

 6月7日に閣議決定された政府の「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」。まとまるまでに自民党内で激しい攻防が繰り広げられたことが、複数のメディアで報じられた。対立したのは「財政政策の方向性」と「防衛費増額」をめぐってである。

 伝統的に財務省に近い宏池会の領袖である岸田文雄首相は、財政政策については基本的に、支出を抑えて早期のプライマリーバランス(基礎的財政収支)の黒字化を目指す「再建派」だ。自民党総裁でもある岸田氏直轄の「財政健全化推進本部」は当然、「骨太」へ向けた提言案に、財政出動より財政再建に重きを置いた文言を並べた。

 これに安倍晋三元首相が激怒。財政健全化推進本部の幹部らに「君たちはアベノミクスを否定するのか」と文句を言って、修正を迫ったという。アベノミクスの3本の矢の1つは「機動的な財政政策(財政出動)」であり、安倍氏は党内「積極財政派」の「財政政策検討本部」で最高顧問を務める。安倍氏にとっては、財政健全化の方向性を明確にすることは、アベノミクスからの方針転換であり、アベノミクスの否定に映るわけだ。

 結局、安倍氏の抵抗の結果、「骨太」ではPB黒字化目標に取り組むとしつつも、「2025年度」という年限が削除された。岸田首相が最後に若干のこだわりを見せ、安倍氏に近い高市早苗政調会長に調整を指示。財政再建を目指しながらも、「政策の選択肢を狭めない」という財政出動ともとれる玉虫色の表現でひとまず決着したのだった。

 防衛費の増額についても、「骨太」の原案には「防衛力を抜本的に強化」としか書いてなかったのに、安倍氏やその周辺の党内タカ派の強い要望によって、「5年以内」との文言が追加された。さらに、「NATO(北大西洋条約機構)諸国がGDP比2%以上を達成する目標を掲げている」こともしっかり明記され、安倍氏にとっては大満足の内容となった。

「岸田首相は内心は『安倍氏離れ』をしたいと思っているが、安倍氏は何と言っても党内最大派閥の会長。気を遣わざるを得ないのだろう。参院選が終われば内閣改造と党役員人事がある。人事に向けても安倍氏はプレッシャーをかけて来るだろう」(宏池会所属の議員)

ハト派とタカ派を取り込む

 安倍氏はこのところ“我が世の春”を謳歌するかのように勇ましい発言で党内への影響力を見せつける。「焦りの裏返し」(自民党ベテラン議員)という冷ややかな見方もあるが、その発言が党の方針をリードすることも少なくない。安倍氏が「敵基地攻撃能力」ついて「基地に限定せず中枢を攻撃することも含むべき」と発言すると、党の提言には「反撃能力」と名を変えて「相手国の指揮統制機能等も含む」と書き込まれた。

 安倍晋三氏は防衛費増額について「来年度は6兆円後半から7兆円が見えるぐらいが相当な額ではないか」と主張している。今年度の当初予算は5.4兆円なので「大幅増」となるが、「骨太」での攻防を見れば、この金額すら通ってしまいそうな勢い。岸田vs.安倍の対立激化というより、すっかり安倍ペース、じゃないか、ということになる。だが、官邸関係者はこう話す。

「いいんですよ。今は安倍氏に言いたいことを発言してもらっていい。特に参院選まではね。岸田内閣の支持率が6割に達していますが、これを分析すると、3割が安倍氏を支持する岩盤保守層、残り3割が穏健保守層と無党派層です。ハト派の岸田氏では、タカ派の岩盤保守層が自民党から離れる恐れがあった。しかし、安倍氏が威勢よく発言してくれることで、岩盤の支持を維持できている。さらに、その安倍氏と路線対立していると報じられることで、ソフト路線を好む無党派層も岸田氏に付いてくるという構図。岸田氏は案外、したたかで計算高い」

 安倍氏は岸田内閣の支持率維持装置に組み込まれているということか。つまりは、安倍氏は岸田首相の手の平で踊らされている、ということだ。

(文=Business Journal編集部)