定年後のベストな健康保険は?医療保険やがん保険は無駄?

 高額療養費制度は、1カ月(毎月1日から末日まで)の医療費の自己負担額が上限を超えた場合に、その超えた分を払い戻してもらえる制度です。自己負担額の上限は、年齢や所得の水準によって変わります。

 さらに、過去12カ月以内に3回以上自己負担額の上限に達した場合は、4回目から自己負担額の上限が下がります(多数回該当)。たとえば、年収200万円の人(70歳未満)の1カ月の医療費が100万円で、3割負担で30万円を支払ったとします。それでも、この人の自己負担限度額は5万7600円です。残りの24万円ほどは、高額療養費制度の申請を行うことで戻ってくるのです。

高額療養費制度の自己負担限度額

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「定年後ずっと困らないお金の話」(大和書房)より

 高額療養費制度は、いったん先に医療費を支払って、あとから払い戻しを受ける制度ですが、前もって健康保険に「限度額適用認定証」を申請しておけば、自己負担分だけの支払いだけで済ませることもできます。あとから戻ってくるとはいえ、一時的に立て替えるのは大変な場合もあるでしょう。そんなときに役立ちます。

 高額療養費制度はとても心強い制度ですが、カバーできない費用もあります。たとえば、入院中の食事代、差額ベッド代、先進医療にかかる費用などです。入院中の食事代は、基本的に1食当たり460円となっています。もしも1カ月入院したら4万円ほどになります。

 また差額ベッド代は、希望して個室や少人数部屋(4人まで)に入院した場合にかかる費用です。金額は人数や病院によっても異なりますが、中央社会保険医療協議会の「主な選定療養に係る報告状況」(令和元年7月)によると、1日当たりの平均は6354円となっています。もっとも、個室のみの平均が8018円と突出して高く、2人部屋だと3044円、4人部屋は2562円などとなっています。

 先進医療とは、厚生労働大臣が認める高度な技術を伴う医療のことです。先進医療の治療費は健康保険の対象外なので、全額自己負担です。

 しかし筆者は、これらの費用に民間の保険で備える必要はないと考えています。そもそも、健康保険や高額療養費制度があることで、医療費はそれほどかからないのですから、食事代や差額ベッド代については、できるだけ貯蓄でまかなうようにすべきでしょう。

 また、先進医療が必要になる確率は非常に低いものです。厚生労働省の「令和3年6月30日時点で実施されていた先進医療の実績報告について」によると、令和2年7月~令和3年6月の1年間で行われた先進医療の患者数は5843人。単純に日本人の人口(1億2500万人)で割れば、先進医療を受ける確率は、わずかに0.004%です。

 しかも、がんの治療として実施数の多い陽子線治療は1285件(1件当たり約265万円)、重粒子線治療は683件(1件当たり約319万円)です。もちろん、これらの治療を受ける可能性はゼロではないものの、とても低いといえるでしょう。

 先進医療で200万円、300万円などというと、高く感じられるかもしれません。しかし、先進医療がすべて高額なわけではなく、なかには数万円~十数万円で済むものもあります。仮に、年齢が低いときに保険に加入しているなら、保険料は割安なのでそのまま加入していてもいいのですが、加入していないのであれば、定年間近でわざわざ医療保険(の特約)やがん保険などで備える必要はないというのが、筆者の考えです。

(文=頼藤太希/マネーコンサルタント、株式会社Money&You代表取締役)

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