セガ「湯川専務」亡くなっていた…ゲーム&広告業界に衝撃走ったワケ

”湯川専務”のパッケージで注目を集めたドリームキャスト(セガ公式サイトより)
”湯川専務”のパッケージで注目を集めたドリームキャスト(セガ公式サイトより

「セガなんてだせえよな!」

「プレステのほうがおもしろいよな!」

 そんな子どもたちの会話がお茶の間に衝撃を与えたゲーム機「ドリームキャスト」のテレビCMに出演し、ゲーム業界と広告業界の歴史に名前を残した“湯川専務”こと湯川英一氏(旧セガ・エンタープライゼス執行役員専務・常務、クオカード会長、ビジネスエクステンション会長、CSK取締役)が、昨年亡くなっていたことが週刊女性PRIMEの取材で明らかになった。同時代にセガの看板ゲームを担当していた中核クリエイターや、今や同CMを“伝説”と見る広告業界関係者も訃報を知なかったようで、驚きが広がった。

 湯川氏は1968年、のちのCSK(現・SCSK)となるコンピューター・サービスに入社。1998年にセガ・エンタープライゼス(当時)に出向し専務取締役。前述のドリームキャストのCMが大きな話題を呼んだほか、“湯川専務の写真”が印刷されたパッケージが販売されたり、秋元康氏プロデュースのCD「Dreamcast/噂のドリームキャスト」がリリースされたりするなど一世を風靡した。

 その結果、湯川氏自身も店頭で販促を行うなどしてドリームキャストは売り切れが続出したのだが、製造トラブルのために出荷台数が予定数を大きく下回ってしまう事態に。湯川氏は“常務に異動”となったのだが、それもまた注目を集めた。

 週刊女性の報道によると、湯川氏は5年前の2017年に体調を崩し自宅で養生していたが、21年6月に誤嚥性肺炎で亡くなったのだという。

セガ関連のゲームクリエイターからも驚きの声

 1984年にセガに入社し、セガ出向時に“湯川専務”と同時代にセガの看板アクションゲーム『ソニックシリーズ』とRPG『ファンタシースターオンライン』を製作したゲームクリエイターでプロペ代表取締役社長の中裕司氏は、“突然の訃報”に以下のように驚きの声をあげた。

「湯川さん亡くなられていたんですね。知りませんでした。ご冥福をお祈りします。湯川さんには色々とよくしてもらったので懐かしいです」(原文ママ)

 

 セガサミーホールディングス関連会社勤務の30代男性は次のように語った。

「雲の上の人だからかもしれませんが、(湯川氏が亡くなっていたことを)僕も知りませんでした。就職活動時、子どものころに見たドリキャスの湯川専務のCMを覚えていたので、セガを志望しました。子どのころも好きなゲームはセガが一番多かったし、なによりあのCMをつくる“自由さ”がこの会社にあるんじゃないかと思ったのがきっかけでした」

湯川氏と岡康道氏の合作・業界史に名を残した“湯川専務”CM

 湯川氏の姿をたくさんの人に印象付けた“湯川専務”のCM。それを手がけたのは電通勤務を経て、日本初のクリエイティブエージェンシー・TUGBOATを設立したCMプランナーの岡康道氏。岡氏は湯川氏の逝去に先立つ、2020年7月31日、 多臓器不全のため63歳で死去していた。

 電通関連会社の50代男性プランナーは次のように語る。

「湯川さんの突然の訃報に驚いています。日経新聞の訃報欄を見落としたのかと思いました。

 岡さんが手がけた湯川さんのCMは、広告業界のあり方を覆した、歴史に残る作品だったと思います。“湯川専務編”は、重役然とした湯川さんが黒塗りの高級車から降り立つと、小学生の男の子たちがライバル製品であるプレステ(プレイステーション)を褒め、自社のことを『だせえよな!』と貶している――という作品でした。そこから始まる『セガ=湯川専務の巻き返し』に多くの視聴者が期待を寄せたものです。

 今では当たり前のようにできるようになったスポンサーの製品を“いじる”もしくは“落とす”CMの先駆けのひとつになったということです。それまではスポンサーの製品の優位性が低く見られるような表現はご法度というのが業界の常識でした」

 博報堂関連会社の50代営業系男性社員は次のように語った。

「セガさんほどの大手メーカーがアイドルや俳優、女優などをCMのメーンに据えず、今で言うところの“中の人”でかつ“一般人”の湯川さんを起用したことは大きかったと思います。(セガが巻き返していこうとする)CMのストーリー性も良かった。

 CMはスポンサー企業とクリエイターの阿吽の呼吸でつくらなければいけません。“自社製品を貶す”内容のCMを承諾し、自ら出演した湯川さんと、タブーを恐れない企画を打ちたてたプランナーの岡さん、そんな二人の会心の一作だったと思います。岡さんに続いて今回、湯川さんも亡くなったことに一つの時代の終わりを感じます。とても寂しいです。心からご冥福をお祈りします」

(文=Business Journal編集部)