原材料価格の高騰や物流コストの増加に伴い食品の値上げが相次ぐ中、外食産業にも価格転嫁の波が押し寄せている。帝国データバンクが主要外食100社を対象に行った価格改定動向調査によると、3割が過去1年に値上げしており、平均70円超アップとなっている。その背景には、外食各社の原価率が急速に悪化し、過去10年間で最高の37.5%に上昇したことがあるようだ。飲食店の値上げ事情について、帝国データバンク情報統括部主任の飯島大介氏に話を聞いた。
――外食各社で値上げの動きが進んでいます。
飯島大介氏(以下、飯島) 今回、上場する主要外食100社における、2021年4月~2022年4月までの過去1年間で実施されたメニューの価格改定を調査しました。その結果、3割にあたる29社が値上げしており、そのうち半数にあたる15社が2022年以降の約4カ月間で値上げし、2021年4~12月の14社を大きく上回るペースとなっています。
――値上げした企業に共通点などはありますか?
飯島 牛丼、ファミリーレストランやうどんなどの「低価格チェーン」が多くを占めています。ただ、消費者への影響を最小限に抑えるため、ベースの低価格商品では値上げ幅を抑えつつ、大盛サービスなどの追加料金や中高価格帯のメニューで値上げを行う傾向がみられました。原材料高騰などを価格に転嫁する大手の動きは、中小各社にも波及していくとみています。
――値上げの要因は、やはり原材料の高騰ということでしょうか。
飯島 「食肉」「小麦粉」「原油」の高騰による影響が目立ちました。食肉では、鶏肉や豚肉のほか、特に輸入牛肉の価格上昇による影響が大きくなっています。牛丼などに使われる米国産ショートプレート(バラ肉)の1kg当たりの卸売価格は、2021年4月以降上昇を続け、同年7月には前年同月比83.1%増の1130円を記録し、足元でも1000円を超えるなど高止まりが続いています。
原材料価格の高騰により、外食各社の原価率が急速に悪化しています。2021年度業績が判明した飲食店約600社の原価率平均は37.5%で、前年度の36.3%を1.2ポイント上回りました。前年度からの上昇幅は過去20年で最も大きいほか、過去10年では最高、さらに2003年度(37.9%)以来18年ぶりの高水準を記録しています。
――ウクライナ情勢の影響についてはいかがでしょうか。
飯島 日ロ関係悪化の影響としては、ヨーロッパからの物流が問題になります。たとえば、回転寿司ではサーモンの値上げが話題になりましたが、これはノルウェーにサーモンの一大養殖基地があるためです。ノルウェーからの流通の際にロシア上空を通過する必要があるのですが、今はロシア上空を避けて大回りしなくてはなりません。そのため、物流コストが上がり、価格に転嫁されたのです。
平時では輸入品を安価で入手できる環境でしたが、非常時になると、そうした問題が出てきます。ほかにも、穀物や食用油脂、原油などで相場価格上昇のトレンドが続いています。
――輸入コストの増加は円安の影響も大きいですね。
飯島 4月28日の金融政策決定会合後の記者会見で、日本銀行の黒田東彦総裁は「急激な円安はマイナス」と発言しつつも、金融緩和を継続する方針を示し、円安を是正するような政策は採らないもようです。一方、米FRBやヨーロッパ中央銀行は量的緩和を終了して金融引き締めを行う方針なので、これから世界の資金は欧米に流れていくとみるのが自然でしょう。今後も、魅力の薄れた円が売られる傾向は続くのではないでしょうか。
これまで安価な輸入食材に頼ってきた外食産業で、急激なコストアップが懸念されています。このまま円安などが長期化すれば、早ければ夏頃から、外食各社で値上げの動きがさらに進む可能性があります。
(構成=長井雄一朗/ライター)