一方、このオニゴーの特徴は「10分で届ける」と“時間”を売っていることだ。まだサービスが提供できる地域は限られているようで、メールアドレスを登録しておけばサービスが開始されたら連絡が来るとのことなので、10分で届けるということにこだわっている。
多くの宅配スーパーは、夕方を過ぎた場合の注文は翌日配送となるため、この便利さは格別だ。「自宅で忙しく仕事をしている時に、パパッとスマホで注文して届けてくれるのであれば、少しくらい高くてもいいから利用したい」と思う層が増えている。私も料理をやるのでわかるのだが、つくり始めてから「あ、玉ねぎ買い忘れた」など気づいた時などにはとても便利だ。
オニゴーのアプリは「商品は実店舗とほぼ同じ価格を実現しております。オニゴーの配達料は、お買い上げの金額に関係なく、一律300円です」と謳っており、「時間を大切にする」「時間を買いたい」「手間をかけたくない」という価値観を持っている層をターゲットにしていることがうかがえる。加えて、営業時間が午前10時から午後10時までと長いこと、さらに定休日がない。注文後はアプリ内でのチャットで「お届け状況」を把握できるので、かなり便利だ。人口が密集している地域でこれから広がりそうなサービスだ。
ダークストアは、小売業以外にも企業の物流拠点としての場所を指すこともあるが、オニゴーは「小売業」だといえる。品揃えや値段も一般的な小売店とほぼ同じで、大きく違うのは「すぐ届けます」という1点のみ。コロナにより外出したくない、うちでご飯を食べたい、時間を大事にしたいという3つのニーズの高まりを見逃さず、サービスを開発できた。
スタートアップ企業や大企業の新規事業では、「自社で何ができるか?」を考える前に、「消費者から何が求められているのか?」というニーズから逆算して、自社の製品やサービスを開発することが重要だ。そのためには、顧客の属性や地域といった目に見えるセグメンテーションだけではなく、「顧客が何を重んじるのか?」という価値観や、「普段どんなライフスタイルなのか?」という行動を洞察する「インサイト」でセグメンテーションをして、ターゲット層を決めていくことが必須だ。
これができてくると、ダークストアのようなスーパーニッチの市場を見つけることができ、そこに製品を出せば、ライバルがいないので、価格ではないところで顧客に選ばれることになる。つまり、値引き不要で価格競争とは“違う場所”で勝負ができるのだ。企業の新規事業やスタートアップ企業などの「スモールスタート」には必須のアプローチになる。
その意味でもオニゴーは、さまざまな業態や業種の企業が参考にできる事例だ。
(文=理央 周/マーケティングアイズ代表取締役、売れる仕組み研究所所長)
●理央 周(りおう めぐる、本名:児玉 洋典)
マーケティング・コンサルタント、企業研修講師。1962年生まれ。静岡大学人文学部卒。フィリップモリスなどを経て、インディアナ大学経営大学院にてMBAを取得。アマゾンジャパン株式会社、マスターカードなどで、マーケティング・マネージャーを歴任。2010年に起業。収益を好転させる中堅企業向けコンサルティングと、従業員をお客様目線に変える社員研修、経営講座を提供。2013年より関西学院大学経営戦略研究科教授として教鞭をとる。著書は『「なぜか売れる」の公式』(日本経済新聞出版社)、『仕事の速い人が絶対やらない時間の使い方』(日本実業出版社)など。商工会議所や経営者会での講演、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌への出演、寄稿も多数。
【HP】http://www.businessjin.com/